中東かわら版

№144 ヨルダン:カラク襲撃事件で「イスラーム国」が犯行声明を発表

 2016年12月18日にヨルダン中部のカラクで発生した襲撃事件について、インターネット上で「イスラーム国 ヨルダン」名義の犯行声明がみつかった。声明は、「カリフの兵士」ムハンマド・サーリフ・ハティーブ、ムハンマド・ユースフ・カラーウナ、ハージム・ムハンマド・アブー・ルンマーン、アーシム・ムハンマド・アブー・ルンマーンの4名がヨルダンの治安部隊のパトロール隊や拠点を襲撃した上で観光地のカラク城に立てこもったと述べている。また、作戦の結果背教者(注:ここではヨルダンの官憲のこと)10名、十字軍諸国同盟の国民(注:カナダ人女性)1名を殺害し、背教者と十字軍の者35名を負傷させたと主張した。

画像:「イスラーム国 ヨルダン」名義の犯行声明

評価

 「イスラーム国」はヨルダンに対し、2015年2月のヨルダン軍のパイロット焼殺動画など度々攻撃を扇動する広報を行ってきた。また、イラク、シリアとヨルダンとの国境を「人工的国境」と称し、その周辺のヨルダン軍の屯所を攻撃するなどしてきた。その一方で、ヨルダン国内で大規模な作戦を実施し、それについて正式な形の犯行声明を発表するのは、今回が初めてと思われる。

 ただし、「イスラーム国」による攻撃がこれまで発生していないからといって、ヨルダンで事件が発生する危険性が低いと判断することはできない。なぜなら、ヨルダンは2015年末の時点で「イスラーム国」に合流した者が2000人以上いると推定されている上、トルコほど活発ではないにしてもイラク、シリアに隣接しているため世界各地で「イスラーム国」が調達した資源の一部の通過地としても機能していると考えられるからだ。これは、ヨルダン国内でかなり強固な「イスラーム国」の組織が活動していることを示唆している。また、2014年にはヨルダン南部のマアーンからと称し、「イスラーム国」のバグダーディーに宛ててメッセージ動画を発表した集団もあり、共鳴者・模倣犯による襲撃事件などが発生する可能性もある。

 今般の事件を受け、短期的にはヨルダン当局によるイスラーム過激派やその支持者への取り締まりが強まることとなろう。その結果、ヨルダン国内に存在する「イスラーム国」の組織や支持者が、取締まりの現場での交戦のようなものも含め襲撃・戦闘を引き起こす可能性も上がるだろう。

(イスラーム過激派モニター班)

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