№142 レバノン:新内閣発足
2016年12月18日、レバノンのアウン大統領は、サアドッディーン・ハリーリーを首班とする内閣の閣僚30名を任命した。ハリーリー首相は、10月末のアウン大統領選出の数日後に首班指名を受けていたが、各政治勢力の調整がつかず組閣までに1カ月半を要した。今般任命された閣僚は以下の通り。
首相 | サアドッディーン・ハリーリー(サアド・ハリーリー) | 所属:ムスタクバル。家族:ラフィーク・ハリーリーの息子(次男)。 |
副首相兼保健相 | ガッサーン・ハーズバーニー* | 備考:通信分野で活動する国際的な実業家。 |
教育・高等教育相 | マルワーン・ムハンマド・ハマーダ | 所属:進歩社会党 |
移民相 | タラール・アルスラーン | 所属:レバノン民主党 |
農業相 | ガージー・ムハンマド・ズアイティル | 所属:アマル |
計画担当相 | ミシェル・ファルウーン | 家族:ピエール・ファルウーンの息子。傾向:レバノン軍団枠? |
国会担当相 | アリー・カーンスー | 所属:SSNP;傾向:大統領枠 |
財務相 | アリー・ハサン・ハリール | 所属:アマル |
青年・スポーツ相 | ムハンマド・フナイシュ | 所属:ヒズブッラー |
女性担当相 | ジャーン・ラティーフ・オガサビヤン | |
国防相 | ヤアコーブ・サッラーフ | 傾向:大統領枠 |
外相 | ジュブラーン・バーシール | 所属:自由国民潮流 |
工業相 | フサイン・アリー・ハーッジ・ハサン | 所属:ヒズブッラー |
司法相 | サリーム・ジャリーサーティー* | 傾向:大統領枠 |
内相 | ニハード・サーリフ・マシュヌーク | 所属:ムスタクバル |
労働相 | ムハンマド・アブドゥルラティーフ・カッバーラ | 所属:ムスタクバル |
人権担当相 | アイマン・シャウカト・シュカイル | 所属:進歩社会党 |
通信相 | ジャマール・サリーム・ジャッラーフ | 所属:ムスタクバル |
避難民担当相 | ムイーン・ムハンマド・ターリク・マルアビー | 所属:ムスタクバル |
文化相 | ガッタース・フーリー* | 所属:ムスタクバル |
大統領府担当相 | ピエール・ラフール* | 所属:自由国民潮流 |
汚職対策担当相 | ニクーラー・トゥワイニー* | 傾向:大統領枠 |
環境相 | ターリク・ハティーブ* | 所属:自由国民潮流 |
行政改革担当相 | イナーヤ・イッズッディーン* | 女性 |
公共事業・運輸相 | ユースフ・フィニヤノス* | 所属:マラダ潮流 |
情報相 | ムルヒム・リヤーシー* | 所属:レバノン軍団 |
社会問題相 | ピエール・アブー・アーシー* | 所属:レバノン軍団 |
観光相 | ウワーディース・ディクラーン・カドニヤーン* | 所属:ターシュナーク党 |
エネルギー・水相 | シーザー・アブー・ハリール* | 所属:自由国民潮流 |
経済・貿易相 | ラーイド・フーリー* | 傾向:大統領枠 |
*印は初入閣の者。
評価
新内閣の課題は、従来どおり「挙国一致」の実現で、組閣の過程でレバノンの政治勢力の全てから満遍なく代表を出すべく各派の調整が続けられた。今般の組閣においては、キリスト教マロン派の党派である「カターイブ」党が閣僚を出さない、国務相を6名任命して閣僚数を30名にした、などの点が目立った。一方、閣僚を輩出した諸派は、閣議で三分の一の反対を確保すれば重要な決定を阻止することができる。19日付『サフィール』紙(親左翼、民族主義)によると、新内閣の陣容は大統領枠9名、ムスタクバル枠7名、3月8日勢力8名など、一見すると三分の一を確保した勢力がないように見えるかもしれないが、いずれの勢力も友好関係にある他の党派からの閣僚と連携すれば三分の一を確保するのは困難ではない。
新内閣では、シリアのアレッポでの戦闘でシリア・ロシアの攻勢を厳しく非難したハリーリー首相や、ワリード・ジュンブラート議員が率いる進歩社会党のような勢力と、実際にシリア軍と共に戦闘に参加したヒズブッラーやSSNPのように重要な課題についての見解が著しく異なる諸派が並存している。こうした状況で、諸勢力が共存し「挙国一致」を成し遂げるのは困難であろう。現状では、迅速に所信表明をすることができるか、「いつ、どのように」国会議員選挙を行うか、などの諸課題への取り組みも長期化する可能性が高い。
(主席研究員 髙岡 豊)
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