中東かわら版

№139 エジプト:カイロのカテドラル近くの教会で爆破事件 #2

 カイロのアッバーシーヤ地区にあるコプト正教会の、聖ペテロ聖パウロ教会(通称ブトロシーヤ教会)での爆発(2016年12月11日)について、「イスラーム国 エジプト」名義の犯行声明がインターネット上で公表された。

声明は、「殉教志願者アブー・アブドッラー・ミスリーがキリスト教の神殿へ出撃、爆弾ベルトで爆破した」と述べた上で、「エジプトやあらゆる場所の不信仰者と背教者は、多神崇拝(注:アラビア語でシルク)に対する我々の戦争が続いていることを思い知れ。カリフの国家は騒乱(注:アラビア語でフィトナ)がなくなり、宗教がすべてアッラーのものになるまで邁進する。」と脅迫した。

評価

「イスラーム国 エジプト」名義での犯行声明は、遅くとも2015年8月にはインターネット上で現れている。この名義は、エジプト国内でもスエズ運河より西の地域での作戦に関する声明で使用されている。カイロやその近郊での「イスラーム国」の活動は、別段新しいことではない。また、教会や祝祭など多くの人々が集まる場所を攻撃対象とする行動様式は、攻撃への社会の注目や世論の反応を最大化することによって戦果を上げる「テロリズム」の行動様式に沿ったものであり、クリスマスや年末年始の催事・祝祭がイスラーム過激派にとって戦果を上げやすい攻撃対象であることにも注意が必要であろう。

 一方、声明が「イスラーム国」の活動を多神崇拝(=シルク)との戦争と主張した点が興味深い。多神崇拝は、具体的な個人・団体・国家ではなく、人間の宗教的な信仰形態のひとつである。通常のムスリムの理解では、キリスト教徒やユダヤ教徒は不信仰者ではあるが多神崇拝ではないとみなされることが多いようである。かつてアメリカが主唱した「テロとの戦い」が、やはり具体的な個人・団体・国家などではなく政治的な行動様式である「テロリズム」を戦争によって殲滅することはできないとの趣旨の非難を浴びている。イスラーム過激派もしばしば自らの行動様式を「メッセージ」と位置づけ、欧米諸国との戦いで決して負けないと主張してきた。今般、自らの敵として多神崇拝という抽象的な信仰形態を挙げたことは、観念的な「最終目標」と、間近の軍事・作戦目標との間をつなぐ、占拠した地域の持続的な維持管理のような活動目標や構想を提起できない「イスラーム国」の特徴を示しているように思われる。

(イスラーム過激派モニター班)

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