中東かわら版

№127 シリア:シリア・トルコ間の交戦で紛争は激化するか?

 2016年11月24日、トルコのユルドゥルム首相は23日にシリアのアレッポ県バーブ西方でトルコ軍の拠点が爆撃を受け、トルコ兵3名が死亡、10名が死亡したと発表した。同首相は爆撃はシリア軍が行ったものであると主張し、報復を行うであろうと強調した。一方、シリア、ロシア、アメリカなどの連合軍のいずれからも当該の爆撃を実施したとの発表はなく、シリア・アラブ通信社(SANA)は本稿執筆時点で事件について触れていない。

評価

 トルコ軍は、爆撃事件とほぼ同時期にラタキア県北部で「ヌスラ戦線(現「シャーム征服戦線」)」を掃討しようとするシリア軍の拠点を砲撃し、「ヌスラ戦線」などテロ組織を含む武装勢力を援護した。また、11月24日は2015年にシリア・トルコの国境付近でトルコ軍機がロシア軍機を撃墜した日にあたる。一方、シリア政府は2016年8月末にトルコ軍がシリア領に侵攻して以来これを占領軍とみなし、トルコに対し度々警告していた。現在のシリア紛争の戦況は、ダマスカス周辺やアレッポでシリア軍などが「反体制派」への攻勢を強めている他、トルコ軍の事実上の傀儡組織である「ユーフラテスの盾」と称する武装勢力の連合体、アメリカが後援しクルド勢力を主力とする「民主シリア軍」が「イスラーム国」に占拠されたバーブ市の攻略を競っている状況にある。

 このような中でシリア軍とトルコ軍との間に大規模な衝突が発生すれば、既に内外の様々な当事者が入り乱れているシリア紛争が一層紛糾しかねないとの懸念がある。現時点で、トルコ軍がシリア領に侵攻した目的としては、「クルド勢力が占拠した地域がトルコとの国境沿いに帯状に形成されるのを阻止する」、「アレッポ県北部に“安全地帯”としてトルコの防衛線を設置する」ことが考えられている。そのため、バーブ市や同市の東方に位置し、現在は「民主シリア軍」が占拠しているマンビジュ市の制圧がトルコにとって重要であると思われる。ただし、“安全地帯”の設置やバーブ市の命運については、トルコを占領者とみなすシリアは無論のこと、ロシアやアメリカのような有力国との間でも合意が得られていない。ここでトルコ軍が強引にシリア軍との交戦やバーブ市の制圧に乗り出せば、トルコはロシア、アメリカなどとの関係上、困難な立場に立たされかねない。そのような状況は、トルコ自身にとって負担となるだけでなく、現在イラクとシリアで重要な局面にある「イスラーム国」討伐の足を引っ張ることとなろう。

(主席研究員 髙岡 豊)

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