中東かわら版

№120 湾岸:トランプ政権誕生が湾岸地域に与える影響

 11月9日、米大統領選において共和党候補のドナルド・トランプの当確が報じられた。トランプは大統領選の最中において、繰り返しイラン核合意を批判し、自身が大統領に就任した際にはこれを廃案にすると明言していた。トランプ当確の報道後、イラン側からは複数の反応が出ている。ロウハーニー大統領は、大統領選の結果はイランの外交政策に何の影響も与えないとし、核合意については国連安保理の承認を得たものであることから、米国政府が状況を変えられるものではないと断じた。また、ザリーフ外相は、重要なことは、核合意履行の約束に次の米国大統領も従わなければならないということであり、国際社会もそれを米国に望んでいると述べている。

 サウジアラビアは、サルマーン国王がトランプに架電し、祝意を伝えるとともに、米国との歴史的かつ戦略的な関係を促進していくこと、中東地域に平和と安定をもたらすために協同していくことを望むと述べた。トランプ側からは、祝意への謝意と、二友好国間の関係を発展させていくことへの期待が表明された。トランプは過去のインタビューにおいて、米国がサウジを支援していたのは石油を持っていたからであり、現在の米国は石油をそれほど必要としていない、米国の支援を必要としているのはサウジであり、彼らは日本やドイツ同様、サウジアラビアに駐留する米国軍への支払いをするべきだと述べていた。

評価

 トランプ政権の誕生は、湾岸地域に大きな変化をもたらすだろう。まず、2015年に成立した核合意は反故にされる可能性が高い。大統領選と同時に行われた議会選では上下両院で共和党が勝利し、イラン核合意に対して批判的な勢力が多数派を占めている。これまではオバマが拒否権の行使を表明することで議会の動きを抑制していたが、核合意廃案を主張するトランプが大統領の座に就けば、これを止めるストッパーが存在しなくなる。国務省など官僚機構は核合意の存続を主張しているが、トランプがこれにどれだけ耳を貸すかは不透明だ。

 他方、サウジアラビアを始めとする湾岸地域の米国の同盟国は、その関係が動揺することに備えなければならない。サウジ、クウェイト、UAE、カタル、オマーンがクリントン財団に支援を提供していたことからも明らかなように、彼らはクリントンとの結びつきが強かった。オバマ以上に不介入主義者としての姿勢を強調しているトランプの中東政策は、オバマ以上に湾岸諸国との同盟の不安定化を招くことになるだろう。

(研究員 村上 拓哉)

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