中東かわら版

№119 エジプト:変動相場制へ移行

 11月3日、エジプト中央銀行は、為替レートを市場の需給に任せる変動相場制への移行を決定し、対ドル為替レートを暫定的な取引水準として1ドル=13ポンドに設定した。これまでの1ドル=8.78ポンドから約48%の大幅な切り下げとなった。変動相場制への移行により、中銀から市中銀行に外貨を供給するシステムであった「外貨オークション」は停止される。ただし、為替レートの安定化のため、中銀は今後も為替市場に介入する用意はあるとしている。

 今般決定は、エジプトがIMFから3年間120億ドルの融資提供を受ける条件としてIMFから要求されていた改革の一つである。また変動相場制への移行と同時に、中銀は、①政策金利の3%引き上げ、②非必需品輸入業者に限り、1日当たり外貨引出し上限額3万ドル及び1カ月当たり外貨預金上限額5万ドルの規制を維持すること(その他の法人及び個人については規制なし)、も決定した。これらの発表を受け、エジプト株式市場は8年間で最大の上昇を見せた。

 エジプトは2011年以降続く不安定な政治・治安情勢によって経済危機に見舞われている。シーシー大統領は経済の建て直しを最優先事項に掲げて大統領に就任したが、その後もテロ事件が続き、主要産業である観光業が復活する見通しは立っていない。そのためエジプトは外貨不足とポンド安に陥り、輸入に依存する食品分野で価格高騰や供給不足となり、政府が緊急対策に出るようになっていた。以下は、2016年に入ってからの外貨不足を示す事例や政府対応、緊縮財政策をまとめた表である。

評価

 8月にエジプト政府とIMFが融資提供の暫定合意に達してから(2016年8月12日付『中東かわら版』No.79)、市場ではいつ為替の切り下げが行われるのか、または変動相場制に移行するのかという憶測が飛び交い、この不確実性を反映して闇市場では上記表のように一時1ドル=18ポンドにまで下落した。今後、さらに下落が続くと予想されるが、どのあたりで底を付くか見極める必要がある。

 確実なことは、今後も進むポンド安により輸入品がさらに値上がりし、インフレが昂進することである。エジプトでは2011年以前から物価の上昇が続いているが、2012年に一度下降した後、2013年から再び上昇し、2016年に入るとほぼ毎月インフレ率が上がり続けている。9月のコア・インフレ率(野菜など価格変動の大きい品目を除いた物価上昇率)は13.94%、食品は14.80%だった。これは外貨不足によるドル高ポンド安、それによって引き起こされた食料品を始めとした輸入品価格の上昇が原因である。世界的な食料価格の高騰も原因にあるが、エジプトの場合、外貨不足に起因するところが大きい。

 既に庶民の間では物価高に対する不満は広がり、一部の層ではこれが政府に対する不満にも変化している。変動相場制に移行した翌日には緊縮財政として燃料補助金の削減が行われ、ガソリン、ディーゼル油、ブタンガスの価格が20~47%引き上げられ、庶民の生活に追い撃ちが掛けられた。今後、国民の実質賃金がさらに低下することが予想される中、変動相場制移行による中間層・低所得者層への経済的影響を緩和する対応策を政府が取らなければ、エジプトの貧困層は確実に増加するだろう。

(金谷研究員)

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