№112 パレスチナ:崩壊に瀕するガザの農業
ガザの農業部門は、約10年に及ぶイスラエルによる経済封鎖に加えて、イスラエル軍による大規模なガザ攻撃により甚大な被害を受けてきた。2016年3月、国連のWFP(世界食糧計画)は、2014年のイスラエル軍のガザ攻撃で発生した農業インフラの復興は、2015年には計画の25%しか達成されておらず、2016年には約2700万ドルの復興資金が必要だとしている。こうした中、『アルモニター』サイト(2016年10月21日付)は、ガザの農業が崩壊の危機に瀕していると報道した。同情報サイトは、イスラエルが農業に不可欠な化学肥料について、ハマースが爆薬製造に転用する可能性があるとして厳しく規制していること、温室の修復などに必要な鉄骨材のガザ搬入が制限されていることなどにより、農家の多くが農業継続をあきらめていると報道した。また土地の塩化やイスラエルとの境界地帯で行なわれている大規模畑作を、武装勢力の侵入を警戒するイスラエル軍が禁止していることも大きな問題になっているとした。同サイトは、こうした障害の結果、農業人口は6万5000人から1万8000人に減少していると報道した。疲弊したガザ経済を下支えしてきた農業部門であるが、その役割を果たせなくなるかもしれない。
評価
ガザ住民の収入源の大きな柱は、従来はイスラエルへの出稼ぎ労働だった。しかし、ハマースがガザ統治を開始した2006年以降、イスラエルはガザからの出稼ぎ労働者を受け入れていない。そうした中で、農業はガザの輸出の8割以上を占める主産業であり、ガザにおける一定の食料自給を達成しただけでなく、ガザ内の主要な雇用部門となっていた。その農業部門が危機に瀕しているとすれば、ガザの経済・社会的逼迫の度合いは一層深刻になっていることを意味する。
9月下旬、ハマースのミシュアル政治局長は、カタルで開催されたセミナーで、2006年の評議会選挙で勝利した後、自分たちだけで政権を運営できると判断したことは間違いだった旨の発言をし、12月に予定されている政局局長選挙には立候補しないことを明らかにした。しかしミシュアル政治局長は、イスラエルと中東和平4者協議が提示した条件(イスラエル承認など)を認める気はなく、ハマースの条件を中東和平4者協議が受け入れるまで戦う姿勢を見せている。ハマースがイスラエルと中東和平4者協議の提示した条件を受け入れない限り、ガザの政治的、経済的な孤立は続くだろう。ガザ住民は、困窮する経済状態の中で、驚異的な忍耐力を見せてきたが、彼らの忍耐力は無限ではない。
(中島主席研究員 中島 勇)
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