中東かわら版

№109 イラク:モスル奪還作戦開始

 2016年10月17日、イラクのアバーディー首相はモスルの奪回作戦を開始したと発表した。最近のイラクの軍事情勢は以下の通り。

凡例
緑:クルド地区

  1. イラク政府がモスルの奪回作戦を開始したと発表。
  2. バグダードの各所でシーア派の宗教行事のアーシューラーの行進に対する「イスラーム国」による爆破事件が多発した。その一方で、ナジャフやカルバラなどバグダード以南の地域での攻撃はほとんど発生しなかった。
  3. 政府軍などがファッルージャ、ラマーディー、ルトゥバなどの拠点を奪取し、アンバール県から「イスラーム国」の掃討を図る。

評価

 モスルは人口約200万人のイラク第二の都市であり、2014年6月に「イスラーム国」が占拠して以来同派にとって最重要の拠点と目される。バグダーディーがカリフを僭称して初の演説を行ったのもモスル市内である。また、「イスラーム国」は検問所を設置してヒトやモノの移動に課金して住民から収奪しているが、モスルのような人口密集地・流通拠点はこうした資金獲得のためにも極めて重要であろう。

 ただし、イラク政府によるモスル奪回作戦の進捗については楽観できない要素がいくつかある。例えば、アバーディー首相が作戦に際してはイラク軍・警察だけが市内に入る旨述べたが、これは「人民動員」や「ペシュメルガ」のような特定の政治勢力に従属する民兵が作戦の主力となった場合、略奪や報復、政治的意図に基づく住民の追放などが発生することが懸念されるからである。戦闘が長期化してイラク軍が消耗し、民兵が前面に立つようになれば、イラクの諸政治勢力の間で民兵を巡る対立が顕在化する恐れがある。

 一方、「イスラーム国」は仕掛け爆弾の設置やトンネルの掘削など市街地の破壊や戦闘に伴う民間人の犠牲を厭わないで交戦する可能性が高い。彼らにとっては民間人が多数死傷してもそれをアメリカなどの連合軍や「シーア派の」政府軍・民兵や「背教者の」クルド人の仕業としてプロパガンダ素材として利用するだけだろう。モスル市は人口が非常に多いこともあり、以前から国際機関などが同地で戦闘が激化すれば未曾有の人道危機が発生しかねないと指摘してきた。モスルのような大都市で、しかも民間人の保護や援助を並行して戦闘を行う以上、作戦が月単位、年単位で進行することも考えておくべきだろう。

(髙岡上席研究員)

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