中東かわら版

№108 クウェイト:燃料価格の値上げを巡り議会が解散

 10月16日、サバーフ首長は国民議会を解散した。今次解散を受けて、今後2カ月以内に総選挙が行われることになる。議会では、政府が燃料価格を値上げしたことを巡って、政府批判が強まっていた。

 燃料価格の値上げは、8月1日に閣議によって決定され、9月1日から新価格が導入された。1リットルあたりの新たな価格は、オクタン91が85フィルス(約0.28ドル。現在の価格は60フィルス)、オクタン95が105フィルス(約0.35ドル。現在の価格は65フィルス)、ウルトラ・プレミアムが165フィルス(約0.55ドル。現在の価格は90フィルス)となっており、およそ40~80%の値上げが行われた。改定後の価格も湾岸諸国のなかでは最も低い水準となる。燃料価格の値上げについて、政府は、燃料への補助金の合理化、財政赤字の改善を図るものであると表明した。また、4半期に一度、国際的な水準に合わせた補助金の拠出と燃料価格の見直しが行われることになっている。

 政府の決定に対し、議員からは抗議が寄せられ、9月22日には定数50名の議員のうち35名が緊急会合の開催を要請した。また、9月28日には、行政裁判所が、燃料価格の値上げについて政府は最高石油評議会の事前承認が必要であったとして、違法であるとの判決を下した。10月5日には、政府と議会との間で協議が行われ、運転免許証を持つ国民一人当たり毎月75リットルのガソリンが無料で配布されること、燃料価格は毎月見直しをすることを政府は認めたものの、多くの議員はこれを不服とし、閣僚に対する喚問要求を出していた。

 

評価

 議会の権限が強いクウェイトでは、政府と議会との間で対立が発生し、政治が機能不全に陥ることがたびたびあった。今回の一件においても、原油価格の下落により歳入が減少し各種補助金の削減を進めたい政府と、補助金の削減により市民生活へ悪影響が出ることを主張する議会との間で対立が先鋭化したことで、サバーフ首長は議会の解散に踏み切ったものと考えられる。もっとも、これは問題を先送りにしただけで、選挙後の次の議会においても燃料価格の値上げの問題について政府への厳しい追求が続くだろう。特に、今期の議会は2013年の選挙で有力な野党がボイコットして成立した議会のため、選挙の結果次第ではさらに政府との対立が深まることになる。

 注目すべきは、他の湾岸諸国に比べると言論・政治活動の自由が保障されているクウェイトにおいて、こうした補助金改革に強い反発が起き、議会の解散にまで至ったという事実であろう。これは、同じく補助金の削減を進めて燃料価格の値上げに踏み切った他の諸国においても、市民の間では政府への不満が高まっている可能性を示唆させるものである。

(研究員 村上 拓哉)

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