中東かわら版

№107 イエメン:米国がフーシー派の紅海沿岸部のレーダー基地に対する攻撃を実施

 10月13日未明、ピーター・クック米国防総省報道官は、過去4日間に米軍艦に対するミサイル攻撃が行われたことに対する自衛行動として、フーシー派が支配する紅海沿岸部にあるレーダー基地3カ所に対して巡航ミサイルを発射し、これを破壊したとする声明を発出した。同声明では、攻撃はオバマ大統領の承認の下、「限定的な自衛攻撃として、我々の乗組員、船、そして航行の自由を守るために行われたものである」と述べている。また、「米国は我々の船および商用航路に対するいかなる脅威に対しても適切な形で応酬する」、「紅海、バーブ・マンデブ海峡および世界のあらゆるところにおける航行の自由を維持し続ける」と述べた。『Reuters』は、米軍筋の情報として、「現地時間午前4時に駆逐艦「ニッツェ」がトマホーク巡航ミサイルを発射した」、「レーダーは紅海上での攻撃の際に稼働していた」、「レーダー基地は離れた地域にあり、民間人の犠牲者が出るリスクは低かった」と報じている。

 フーシー派は、10月8日にサウジアラビア主導の有志国軍によるものと見られるフーシー派「政府」のルワイシャン内相の父親の葬式への空爆によって多数の軍幹部が殺害されたことから、サウジアラビアを始めとした敵対勢力への報復攻撃を強化していた。特に、米国に関しては、公海上を航行する米駆逐艦「メイソン」等に対して沿岸部からミサイル攻撃を少なくとも2回実施しており、米国防総省はフーシー派に対して警告を発していた。

  

評価

 イエメン紛争に関しては、サウジアラビアが主導する有志国軍が前面に立っており、米国の関与は兵站やインテリジェンス等の後方支援や、フーシー派への武器の密輸を取り締まるための海上封鎖といった間接的なものにとどまっていた。しかし、紛争が長期化し、イエメンの人道問題が深刻化するにつれ、米国はサウジ批判を強めるようになり、有志国軍に対する支援も徐々に減らしていた。先の10月8日の空爆に関しても、サウジを強く批判するとともに、有志国軍への支援の見直しに着手したことを表明している(詳細は以下を参照。「イエメン:サナアへの爆撃で死傷者多数」『中東かわら版』No.104(2016年10月12日)

 そうした状況下において、米国が初めてフーシー派に対する直接的な軍事行動をとったことは、今後の情勢の転換点となりうる。フーシー派が米軍への攻撃を強化し、バーブ・マンデブ海峡付近の国際航路が紛争地帯となるようであれば、米国は更なる措置に踏み込まざるを得なくなるだろう。他方、フーシー派が米国への攻撃を自制し、サウジ等への攻撃に限定するのであれば、米国の関与は引き続き限定的なものにとどまるだろう。

(研究員 村上 拓哉)

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