中東かわら版

№100 シリア:戦闘激化で予想されるアメリカの対応

 9月半ば以降アレッポでの戦闘が激化し、アメリカとロシアとの合意に基づく「戦闘の停止」は完全に破綻した。アメリカをはじめとする「反体制派」に与する諸国は、アレッポで民間人の犠牲が拡大しているとしてシリア軍・ロシア軍による攻勢を非難している。こうした中で、アメリカは「戦闘停止」の復活、或いはシリア軍・ロシア軍による攻勢の抑止のためにどのような対策を採りうるだろうか。4日付『シャルク・ル・アウサト』(サウジ資本の汎アラブ紙)はアメリカ政府が検討している対応として以下の通り報じた。

 

1.シリアについてのロシアとの二国間協議の停止。

2.アメリカ軍・連合軍による爆撃援護のための特殊部隊をアレッポに派遣。

3.戦闘地域から離れた場所にあるシリア軍基地を爆撃。

4.中東地域にアメリカの空軍・海軍を増派。

5.安全地帯/飛行禁止区域/「イスラーム国」排除地域の設定。

6.シリア人向け人道援助の積み増し。

7.「反体制派」への武器供給の強化。

8.「同盟国」による「反体制派」への高性能な武器供給を黙認。

9.「シリア支援国会合」参加国との協議を通じた事態打開。

10.アメリカの下院で取り沙汰されている、対ロシア制裁強化法案の提出時期・審議の調整を通じた圧力。

 

評価

 予想される対応策の中には、シリアにおける戦闘の沈静化、或いは民間人の犠牲の回避に即効性のある対策は見当たらない。それどころか、かえって紛争を激化・長期化させる可能性が高い対策すら見られる。これは、シリア紛争への介入強化がロシアにとって重い負担になることを知らしめ、ロシアを抑止するとの発想に基づくものである。シリア紛争の推移に対するアメリカの対応の足かせとなっているのは、オバマ政権の任期が残りわずかで劇的な措置をとりにくいこと、アメリカの世論が大規模な軍事力を投入する介入を支持し得ないことなどである。その上、アメリカなど「反体制派」に与してシリア紛争に介入する諸国の政策は、それが「シリア紛争の解決」、「アサド政権の打倒」、「「イスラーム国」の討伐」、「ロシア、或いはイランの抑止」、「自国の権益の確保・増進」のいずれを目指すのかはっきりしなくなってしまっている点を見逃すことはできない。すなわち、シリア紛争におけるシリア政府・ロシア・イランの勝利を嫌うあまり、アメリカやその同盟国がとる行動は紛争をいたずらに長期化させ、かえってシリア人民の犠牲を増やす結果になりかねないのである。当然ながらこのような政策は「イスラーム国」の討伐にも効果をもたらさない。

 シリア政府やロシアの軍事行動が人命・社会資本・文化財など様々な面で甚大な被害を出していることも確かではあるが、だからといってシリア政府・ロシアに敵対する側が「シリア人民を助ける正義の味方」ではないことも明らかである。内外の紛争当事者がシリア人民を疎外し、彼らの利益を省みずに紛争を長期化させているという問題に目を向けなければ、民間人の被害を強調してわずかばかりの資金や物資を提供しても効果的な援助や「シリア人民への連帯」にはなりえないだろう。

(主席研究員 髙岡 豊)

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