中東かわら版

№99 エジプト:検事総長補佐の暗殺未遂

 9月29日夜、ニュー・カイロ市ヤスミーン地区で、ザカリヤー・アブドルアジーズ・ウスマーン検事総長補佐の乗った車が走行中に、路肩の自動車が爆発するという暗殺未遂事件があった。検事総長補佐は無事だったが、付近にいた民間人数名が負傷した。ニュー・カイロ市はカイロ中心街から東20kmに建設された新しい町で、警察アカデミー、内務省、海外の私立大学、高級住宅街などがある。

 この事件に関し、30日、インターネット上に「ハスム運動」(「エジプトの翼運動」の略称)の署名入りの犯行声明と自動車が爆破された瞬間と思われる画像が出回った。犯行声明には、あらかじめ作戦の現場を下見したこと、検事総長補佐の車が通過する時間を確認していたこと、裁判官が軍部の手足となって数千人の死刑判決や殺害に関与していること、が記された。また、「軍部とその支援者である裁判官、ジャーナリスト、内務省の民兵(訳注:警察)」に対する攻撃を今後も続けることが示唆されている。

 

評価

 エジプトの司法府は、2013年のクーデタ以来、ムスリム同胞団メンバーの大量逮捕・訴追に関与しているため、裁判官や検察官がイスラーム過激派やその他正体不明の武装集団に攻撃される事件が度々起きている。2015年6月には、バラカート検事総長が同じく自動車の爆発で殺害された(2015年6月29日付『中東かわら版』)。今回もこの種の事件といえる。

 ハスム運動の構成主体は不明だが、一部の現地報道はムスリム同胞団メンバーの関与を指摘している。同胞団に対する苛烈な弾圧によって、同胞団の末端メンバーが暴力的な反政府活動を行っていることは事実であり、ハスム運動に同胞団メンバーが関与していることも完全には否定できない。ただし、同運動は、シナイ半島で活動する「イスラーム国シナイ州」のようにシャリーアの統治を主張してはおらず、あくまで現政権の打倒を訴えるだけであることから、イスラーム過激派とは一線を画する組織と思われる。なお、ハスム運動は8月5日にギザ県10月6日市で、アリー・グムア前大ムフティーの暗殺未遂事件も起こしている。

 こうした武装組織は、今後も、現政権の中心的主体である軍、警察、司法関係者や、現政権を支持する政治家・ジャーナリストらを攻撃する可能性は高い。現地邦人は引き続き、軍・内務省・司法関連施設への無用な接近を避けるよう注意することが必要である。

(金谷研究員)

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