中東かわら版

№96 リビア:東部で原油輸出が再開

 2013年から断続的に閉鎖状態にあった東部の原油輸出港(ラス・ラヌーフなど数箇所)が、代表議会(東部の立法府)の軍事組織「リビア国民軍」(LNA)による軍事的制圧によって閉鎖が解かれ、9月16日から原油の輸出が再開された。9月11日に、LNAが「石油施設警備隊」(PFG)支配下にある複数の原油輸出港を急襲し、ほぼ無血で港を制圧、国営リビア石油会社(NOC)に原油輸出を促したためである。

 これらの港は、イブラーヒーム・ジャドラーン率いるPFGが東部地域の自治をトリポリの中央政府に要求する手段として、2013年頃から幾度となく閉鎖されてきた。東部からの原油生産量はリビア全体の3分の2を占めるといわれ、東部における原油生産及び原油輸出の停止は国家財政を危機的状況に追い込んできた。財政危機は、ディナールの下落、民間銀行における現金不足、公務員給与の未払い、各地での電力供給の滞り、民兵組織による電力供給網の支配に発展した。このため、国連、EU、欧米諸国、トリポリの統一政府「国民合意政府」(GNA)は、ジャドラーン及びPFGに港の閉鎖解除を要求し続けてきた。

 閉鎖解除を受け、早速、ブレガやハリガ港からイタリア、イギリスに原油の輸出が再開された。2016年末までに、東部からの輸出量は90万バレル/日にまで増加するという見方もある。

 (2016年9月14日付 BBCより筆者作成)

 

評価

 港の軍事的制圧と閉鎖解除においては、諸勢力の同盟/対立関係が交錯する過程があった。ここに、原油の輸出再開を手放しで喜べない理由がある。

 LNAによる急襲作戦と港の制圧を受け、国連、欧米諸国、GNAは即座に軍事行動を非難する声明を発出し、GNAこそが石油施設を保護する権利があると主張した。しかし15日には、GNA寄りのサナアッラーNOC会長(トリポリ事業所社長)が、GNAと対立関係にあるLNAの制圧作戦を歓迎する立場に変わり、PFGによるこれまでの閉鎖行為を非難した。一方、PFGは、シルトの「イスラーム国」掃討作戦でGNAと共に戦う協力関係にある。つまり、PFGもサナアッラーNOC会長も本来はGNA側であるはずが、原油の輸出をめぐり、両者は対立関係に変わった。国連やGNAもまた、リビア統一政府の実現を頑なに拒否するLNAと対立関係にあるが、原油の輸出が可能になったことで、一転してLNAに対する非難を止めた。

 このような共通利益による同盟/敵対関係の変化は2011年以降のリビアでは頻繁に起きており、この流動的な情勢が統一政府の成立と確かな統治の実現を妨げている。原油収益はあらゆる勢力にとって貴重な戦略的資源である以上、今後も東部の原油輸出港が諸勢力の争いの道具となる可能性はきわめて高い。特に、港を実効支配するLNAはハリーファ・ハフタルという反GNA派の最有力人物が率いていることを考えれば、原油の輸出が安定的に継続すると楽観視することはできないだろう。

(金谷研究員)

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