中東かわら版

№95 イスラエル:ヨルダンへの天然ガス輸出契約に調印

 9月26日、イスラエル最大の天然ガス田リバイアサンを開発するパートナー社の米国ノーブルエネジーは、ヨルダンの国営電力会社(National Electric Power Company Ltd.:NEPCO)との間で天然ガス供給契約に署名したと発表した。同契約では、15年間で、450億立方メートルのガスを供給し、契約総額は100億ドルになると報道されている。リバイアサン・ガス田はまだ生産を開始していないが、同ガス田を開発する企業グループは、ヨルダンのNEPCOとガス販売について2014年9月に合意していた。リバイアサン・ガス田の開発では、イスラエル側で開発をめぐる意見の対立があり、独占禁止委員会や最高裁などが開発の方法や契約について介入する事態となり、ガス田の本格的な開発がいつになるか状況は不透明であるが、生産開始は2019年といわれている。リバイアサン・ガス田から産出される予定の天然ガスについての売買契約が調印されたことを、イスラエルのエネルギー相は「歴史的契約」と賞賛した。

 ヨルダンは、イスラエルのもう一つの巨大ガス田、タマール・ガス田(2013年生産開始)からの天然ガスを購入する予定である。同契約では、タマール・ガス田のガスを死海沿岸にあるヨルダンの2企業(Arab Posta社とJordan Bromine Companies社)に対して総額5億ドル(最大22億立方メートル、期間15年)のガスを供給する。2015年4月、イスラエル政府は、同契約を承認している。また同年9月には、イスラエル政府はパイプライン建設予算の積み立てを承認している。2016年3月時点の報道では、パイプライン2本が建設中で、2017年には稼動する予定である。

 

評価 

  イスラエル沖の深海から産出される天然ガスが、実際にヨルダンの企業に売却されるのは、作業が順調に推移したとしても数年先である。そのため、今後、イスラエルあるいはヨルダンの政治状況が変われば、ガス契約が破棄される可能性はある。2011年にエジプトでムバーラク前大統領が失脚した後、エジプトは売却価格を問題視してイスラエルに対する天然ガス販売を中止したことがある。エジプト国民、ヨルダン国民は、イスラエルとの天然ガス売買を手放しでは歓迎していないのが現状である。

 他方、ヨルダンは、湾岸諸国から天然ガスを購入できるが、隣国イスラエルから購入することが経済的には最も合理的でありインフラ整備も安く済むといわれている。イスラエルとヨルダンが天然ガスの売買で両国が共に利益を得る仕組みが構築されるのであれば、地域の政治情勢の安定化に大きく寄与する。米国は、この視点から、イスラエルの天然ガスを近隣諸国に売却する協議を影で支援していると報道されている。イスラエルの天然ガス開発を進める企業は、ヨルダンなどの隣国へのガス販売に前向きである。

  イスラエルには、自国の排他的経済水域内に巨大なガス田が2つあり、今後約30年間、国内消費に加えて輸出も可能になると予想されている。イスラエルは、すでに国内の天然ガス生産から最大限の利益を得る経済インフラを構築しようとしている。しかし、イスラエル産の天然ガスがなくなる日は必ず来る。その時、イスラエルの経済インフラは、天然ガスを活用するする構造になっており、天然ガス以外の安価の新たなエネルギー源を見出さない限り、天然ガスが購入可能な国を獲得する必要がある。30年後の状況予測は難しいが、イスラエルが当面の間、自国産の天然ガスを輸出でき、かつ将来的には天然ガスを輸入できる国は、現実的にはエジプトあるいは共同開発を進めることのできるキプロスしか想定できない。

  イスラエルが、再度、エジプトから天然ガスを購入する戦略を立案するのであれば、過去の失敗を繰り返さないための政治的な配慮が必要になる。キプロスについては、状況はより複雑だ。キプロス領海・排他的経済水域内では、すでに有力なガス田が発見されている。北キプロスを支援するトルコは、南北キプロスが一緒に海底の天然ガスを開発することを主張し、北キプロスを排除した開発に反対している。イスラエルは、キプロスとのガス田の共同開発に前向きであるが、北キプロスとの接触は弱い。トルコとイスラエルは、最近ようやく関係改善の動きをしているが、キプロスの天然ガス開発問題は、今後両国間で大きな政治問題になる危険性がある。

(中島主席研究員 中島 勇)

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