中東かわら版

№85 サウジアラビア:ムハンマド・サルマーン副皇太子のアジア歴訪(1)

 ムハンマド・サルマーン副皇太子は、8月28日にパキスタン、29日に中国を訪問し、31日夜に日本に到着した。日本には9月3日まで滞在し、9月4日、5日には中国で開かれるG20首脳会議に出席する予定である。ムハンマド・サルマーンが副皇太子としてアジア諸国を公式訪問するのは初。

 パキスタンでは、シャリーフ首相と会談し、二国間の様々な分野における協力の促進、地域・国際情勢について協議した。特に安全保障の問題について協議し、シャリーフ首相は、「サウジアラビアが脅威に直面するときは、パキスタンはサウジアラビア側に立つ」と述べた。

 中国では、習近平・国家主席(31日)のほか、張高麗・国務院副総理(30日)、常万全・国防部長(30日)とそれぞれ会談し、エネルギー開発、石油備蓄、鉱山など15の協定・了解覚書(MOU)を締結した。これに関連し、トゥライフィー文化・情報相は、中国のシルクロード構想はサウジアラビアの「ビジョン2030」と適合していると述べ、サウジアラビアと中国の経済関係の強化を主張した(「ビジョン2030」については「サウジアラビア:2030年までの経済改革計画「ビジョン2030」を発表」『中東かわら版』No.19(2016年4月26日)を参照。)。

 同副皇太子には、アサーフ財務相、ファキーフ経済・計画相、カサビー商・投資相、ムハンマド・アール=シャイフ国務相、トゥライフィー文化・情報相、ジュベイル外相、ファーリフ・エネルギー・工業・鉱物資源相、ハクバーニー労働相、フマイダーン総合情報庁長官が同行している。

評価

 ムハンマド・サルマーン副皇太子によるアジア歴訪には、いくつかの重要な目的があると考えられる。第一に、ムハンマド・サルマーンのアジア諸国への顔見せである。同人は2015年4月の副皇太子就任以来、米国、ロシア、フランスを訪問し、世界の首脳との会談を重ねてきた。これは国内外において王位継承者としての立場を宣伝し、その政治的基盤を確固としたものにする狙いがあると考えられる。G20首脳会議に同副皇太子が出席するのも、同様の理由に基づくものであろう。

 パキスタンへの訪問は、イランとの関係上、重要な友好国であるパキスタンとの関係強化が目的であろうが、日中への訪問は、サウジアラビアの経済改革計画「ビジョン2030」への協力を取り付けることが、主たる目的と見られる。脱石油依存を掲げる同計画では、サウジアラムコのIPOを進めるほか、中小企業の育成や、投資や観光、製造業、物流など経済の多角化を目指している。これらの分野において、サウジにとっては重要な石油輸入国である日本と中国に、積極的な関与を要請している。改革の旗振り役である副皇太子にとっては、「ビジョン2030」を実現させることが自身の最重要の政治課題であり、同行する閣僚の顔ぶれを見ても、その熱意が伝わってくると言える。

(研究員 村上 拓哉)

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