№67 トルコ:国軍によるクーデターの発生
7月15日(金)夜、トルコで国軍によるクーデターが発生した。
首都のアンカラやイスタンブルなどの主要都市にトルコ軍が展開、軍は、幹線道路や空港を閉鎖、イスタンブルのアタテュルク国際空港では発着予定だった飛行機全便の離着陸がキャンセルとなった。トルコ国営放送(TRT)も軍によって占拠され「民主主義が公正発展党政権によって蝕まれた。出来る限り早急に新憲法の制定を行う」との声明が読み上げられた。
現地報道では、軍によってトルコ全土で戒厳令が敷かれ、外出禁止令が出されているものの、エルドアン大統領はCNNトルコのニュース番組にビデオ電話で出演し、国民に外出して軍に対抗するよう呼びかけた。軍は国政を掌握したとの声明を出したが、その後、政府治安部隊によって制圧されたとの報道も出ている。
ユルドゥルム首相は、記者会見で「状況は落ち着いてきており、現在はクーデターが起こる以前の状況に戻りつつある」と述べるなど一連の騒動鎮圧に成功していることを改めて強調した。また、同首相は今回のクーデターを起した軍の動向について、以前からエルドアン大統領との確執が報じられているギュレン運動の指導者で、現在は米国に亡命中のフェトッゥラー・ギュレン師が関与しているとして名指しで非難した。
クーデター発生直後からトルコの報道機関をはじめ様々な情報が錯綜しており、現時点においては軍が全権を掌握できたのか、政府がその鎮圧に成功しているのかどうかは定かではない。
評価
トルコはこれまで1960年、1971年(書簡によるクーデター)、1980年の過去3回、軍によるクーデターを経験している。建国以来の国是である世俗主義が脅かされそうになったときや、政治や経済に大きな混乱が生じた場合に軍が出動し事態を収拾、一時的に軍事政権を樹立するものの、混乱が収まり安定すると民政移管を行ってきた。
2002年にエルドアン率いる現在与党の公正発展党(AKP)が政権に就くと軍の弱体化に着手、国民からの高い支持を武器に、軍が政治に介入し影響力を行使することを阻止することに成功した。2013年8月にはイルケル・バシュブー元参謀総長は「テロ行為」を計画していたとして政府転覆罪を適用し終身刑の判決が言い渡されている。エルドアン首相(当時)にとって長年の宿敵であった軍の弱体化成功はエルドアン自身の権力を一層盤石なものとし、その後の軍との関係は良好であると思われていた。
しかし、今回発生した事件は、未だ全容が見えてきてはいないものの、エルドアン大統領のあまりにも強権的な手法と、イスラーム主義的な価値観が政治に持ち込まれていることを危惧した一部の軍関係者がこれを阻止するために動いたと考えられる。
トルコ国内では世俗主義派とイスラームの価値や規範に則った政治を希望するイスラーム主義支持層との間での対立が年々激しさを増しており、双方の溝は埋められないほど深くなっている。特に世俗派の象徴でもある国軍は権力を剥奪され国内での影響力も低下していた。今回のクーデターは国是を守護する絶対的な存在であり続けようとする軍の抵抗だと言えよう。
(研究員 金子 真夕)
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