中東かわら版

№66 クウェイト:家庭内労働者の最低賃金などを規定

 7月14日、内務省は、家庭内労働者の最低賃金や労働時間について規定する家庭内労働者法施行規則を発出した。クウェイトでは、個人宅にて保育や運転、調理といった仕事に従事する外国人労働者が60万人いるとされているものの、彼らの労働条件については十分な法制度が整えられておらず、給料の不払いや長時間労働といった問題が常態化していた。これらの状況を改善するため、議会は昨年7月に家庭内労働者法を成立させていた。

 施行規則では、こうした家庭内労働者の最低賃金を月額60ディナール(約200ドル)にするほか、超過労働分の残業代の支給、1年の勤務につき1カ月分の退職金の支給、完全週休1日制の導入、年間30日の有給休暇の付与、1日の最長労働時間を12時間以内にすることなどが定められている。

 違反した場合の罰則規定も含めて、家庭内労働者の労働条件を包括的に規定するのは、湾岸諸国ではクウェイトが初となる。

  

評価

 湾岸諸国における外国人労働者の人権状況についてはしばしば問題にされてきた。そのなかでも、個人の家庭という外からの監視が入りづらい閉鎖的な職場で働く家庭内労働者は、もっとも立場の弱い存在であった。劣悪な労働環境のみならず、雇用主が労働者の旅券を不当に没収したり、暴力を振るったりするなど、犯罪行為が罷り通ってきたという事実もある。こうした状況は人権団体からもたびたび批判されていたほか、労働者の送り出し国である南アジアや東南アジアの国々との外交問題に発展する事例もあったほどである。

 今回の施行規則の発出は、こうした状況を改善することに資する措置として評価できよう。最低賃金の額はクウェイトの物価を考慮すれば必ずしも十分な水準とは言えないが、これまで規定そのものが存在しなかったことを考慮すれば、大きな前進といえる。制度が成立したとしても実際の運用においては規定が適切に履行されない恐れがあるが、雇用主、労働者双方の人権意識が向上することにより、状況は徐々に改善されていくものと期待できよう。

(研究員 村上 拓哉)

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