№65 シリア:「ヌスラ戦線」が「穏健な」反体制派を続々制圧
2016年7月13日付のレバノン紙『サフィール』(親左翼)は、アメリカなどの支援を受ける武装勢力が「ヌスラ戦線」に相次いで屈服しているとして要旨以下の通り報じた。
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「解放軍」と「ヌスラ戦線」との間の対立を解消する旨の合意を締結した。しかし、この行為は対等な二者間の合意ではなく、「解放軍」側が「ムジャーヒドゥーンに敵対するいかなる計画にも参加しないこと、「解放軍」の存在や戦闘、動向などのあらゆる活動が「ヌスラ戦線」の監督を受ける」ことを誓約するのに対し、「ヌスラ戦線」が「「解放軍」側が上記の誓約を遵守する限り、両者の良好な関係を保つ」との合意である。これは、「解放軍」が「ヌスラ戦線」に服従を誓う合意である。
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「解放軍」は、アメリカが支援する武装勢力の主要団体で、アメリカをはじめとする各国の情報機関が監督し、トルコのアンタキアに設置されている作戦司令室の参加団体である。「解放軍」への武器供給、兵站、給与の支払いはこの作戦司令室が行っている。
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「解放軍」は2015年末に結成されたものであるが、「シャーム戦線」、「第46師団」、「第312師団」、「第314真実部隊連合」などの諸派を結集した武装勢力である。結成の目的は、以前に「ヌスラ戦線」によって粛清されたアメリカの支援を受ける武装勢力諸派の再編だった。
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「ヌスラ戦線」は、「ハズム運動」、「シリア革命家戦線」など15の武装勢力を武力で打倒・解体したほか、自派の要求に屈服させることを通じて他の武装勢力諸派を制圧している。
評価
これまで、アメリカは幾度となく「穏健な」反体制派とみなす武装勢力諸派を政治的・軍事的に支援してきたが、その度に「ヌスラ戦線」に敗北したり、武装勢力諸派自身が崩壊するなどして失敗した。このため、アメリカの支援の重心はクルド勢力を主力とする「民主シリア軍」に移っているのが実情である。本来、アメリカなどの支援を受ける武装勢力は、シリアにおいてアサド政権、「イスラーム国」、「ヌスラ戦線」の全てと交戦し、アメリカが講じるイスラーム過激派対策を戦場で担う尖兵となるべきものである。しかしながら、実態はこれらの武装勢力諸派が「ヌスラ戦線」に屈服し、事実上その配下に組み込まれているのである。現在、シリアの各勢力の分布を地図に描くと、イドリブ県は「反体制派」が占拠していることになっているが、上で挙げた「ハズム運動」や「解放軍」はいずれもイドリブ県を拠点とする武装勢力であり、同地は実質的にシリアにおけるアル=カーイダでアメリカなどがテロ組織に指定する「ヌスラ戦線」が占拠しているといえる。アメリカをはじめとする各国が、「穏健な」武装勢力諸派が「ヌスラ戦線」に屈服していると知りながら支援を続けている現状は、「ヌスラ戦線」に武器や資金が流出することを黙認するだけでなく、「ヌスラ戦線」を政治的に承認・正当化する結果をも招いている。
(主席研究員 髙岡 豊)
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