中東かわら版

№63 イスラエル:国会が「NGO透明化」法案を可決

 7月11日、イスラエル国会は、「NGO透明化法案」について、約6時間審議した後、賛成57、反対48で採択した。同法案は、シャッケド司法相を含む3人の議員が提出した法案で、外国政府及び政治団体からの支援が、そのNGOの活動予算の半分を超える場合、外国の支援を受けた活動である旨を情報発信する際に明示する必要があるとしたもの。国会は同法案の審議を今年2月から開始していた。最初の法案文では、外国からの支援が予算の半分を超えるNGOのスタッフは、国会を訪問したり証言したりする際、そのことを示すバッジをつけることを求める文言があったが、6月の審議の際に削除されている。

 イスラエル側の報道では、占領地の人権問題などをモニターするNGOは全て今回の規制の対象になる。イスラエルには約7万のNGOが登録され、内パレスチナ紛争を扱う団体は70団体とされる。他方、入植地建設や入植者を支援する外国からの援助は、個人名義や匿名になっているため、「NGO透明化法」の対象にならない。そのため野党「シオニスト・ユニオン」のNo.2のリブニ前司法相は、イスラエルで活動するNGOに透明化を求めるのであれば、すべてのNGOを対象にすべきだとして法案を提出したが右派・極右政党に阻止されている。

 「NGO透明化法案」はイスラエルの国内法であるが、欧米諸国から強い懸念が表明されている。2016年1月2日、米『ワシントン・ポスト』紙は、社説で、同法案成立はイスラエルの民主主義を危うくすると懸念を表明している。また欧州議会あるいはドイツなどの国会議員らが、同じ趣旨で、同法案に対する懸念を表明していた。 

 

評価

 イスラエルの右派と極右による、人権擁護活動を行なうNGOに対する露骨な締め付けのための法律が成立した。右派・極右は、外国政府によるイスラエル内政への干渉を阻止するとしているが、自分たちに対する外国からの支援は対象外にしており、左派系NGOを狙い撃ちにした法律であるのは明白だ。今回の法案成立後、野党政治家の一人が、イスラエル国民は、今後何世代にもわたって、この法律成立の代償を支払うことになると嘆いているが、まさにその通りになるだろう。

 イスラエルと米国・欧州諸国との関係が、今後、一層冷ややかになるのは避けられない。イスラエルは、占領地などで強硬な行動を取るが、その一方で、イスラエル軍などの行動を綿密に監視・調査し、国際社会に向けてその成果を公表したり、イスラエル政府を厳しく糾弾する筋金入りのNGOが多数存在してきた。イスラエル政府と国民の一部は、こうしたNGOを批判しているが、国際社会あるいは欧米諸国は、イスラエルの民主主義が健全に機能している証として、こうしたNGOの活動を高く評価してきた。それだけに、米国及び欧州諸国が今のイスラエル政権に対して失望し、強く落胆するのは必至であり、その政治的な波紋は大きいだろう。

  左派系のNGOは、自分たちの活動や資金援助元についての情報を公開していることが、今回の締め付け法案成立の背景にあるようだ。他方、西岸で入植地活動を行なう組織や右派・極右組織に対する資金援助については、左派系新聞『ハアレツ』が調査報道を断続的に行なっている。しかし、匿名による資金援助が多く、また投資ファンドやタックス・ヘブンにある機関などが関与して複雑怪奇な資金のやり取りをしており、援助の実態に関する透明性はまったくといっていいほどないようだ。今後、こうした状況に国民及び国際社会の批判が高まるかもしれない。イスラエルの右派・極右に対する援助は、米国からが多いようだ。米国政府内には、西岸での入植地建設の促進など、米国の中東政策に逆行する活動をしている団体に、米国内で免税措置を受けた資金が流れているかもしれない疑念に対するいらだちがあると報道されている。

(中島主席研究員)

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