№61 イスラーム過激派:「イスラーム国」の広報部門
7月7日、フルカーン広報製作機構の名義で「カリフ制の構造」なる映像が配信された。この映像では「イスラーム国」の中央広報庁として、「イスラーム国」傘下にある広報媒体が以下のように示された。
表1:「イスラーム国」傘下とされる各種広報媒体
(各広報媒体の画像は過去の情報から適宜抽出した)
画像1:「カリフ制の構造」の表題の図
評価
「イスラーム国」が自発的に示したという点に鑑みると、今回の映像は、彼らが認識する現行の「公式」の広報媒体を把握する上で、とりわけ重要と思われる。
まず、過去の「イスラーム国」の広報媒体の分析と比較すると、いくつかの広報媒体が除外されているほか、新たな広報媒体が登場している。具体的には、2013年頃から欧米などに戦闘の様子やメッセージを伝えてきたイウティサーム広報製作機構や、2014年頃から宗教指導者の説法等を盛り込んで戦闘員の教化を図ってきたとされるバシーラ機構が今回の映像で除外されている。また、週刊紙ナバウが新たな媒体として紹介されている。なお、上記の表にある支持者と言語・翻訳に関しては、発信側からの説明がないため、表記する以上の作業をすべきではない。いずれにせよ、広報媒体の変化は、時と場合に応じて変化することがわかる。
一方、今回の映像で取り上げられなかった広報媒体に関して言えば、目下「イスラーム国」から承認されていない「非公式」の広報媒体と考えてよいだろう。それら非公式の広報媒体は、主に支持者によって作られている模様であり、以下の表のように示すことができる。
表2:「イスラーム国」支持者の広報媒体
上記の表の広報媒体の多くは、支持者やファンが製作する非公式の作品、2次作品群と呼びうるコンテンツを配信している。こうした媒体の数はかなり多く、上記の媒体はその一部である。内容に関しては、主に公式作品群やニュースの切り貼りで構成されており、特にメッセージ性もなく、短期間のうちに活動を停止するものが多い。それらを網羅的にフォローアップすることは労力に比して効果が薄いように思われる。
最近だと、「イスラーム国」傘下の「報道機関」とされるアアマーク通信が、邦人の死者を出したバングラデシュの襲撃事件やフロリダ州のナイトクラブ襲撃事件の犯人予想が欧米などのメディアで展開される中で、過度に注目されてしまった。これらの2次作品群までをも公式の作品群と位置づけるのは早計であり、状況に応じて公式の作品と区別する必要があるだろう。支持者は公式部門とは独立し、自発的に行動する主体であると思われる。支持者やファンの作成する2次作品群だけに基づいて、何らかの事件と「イスラーム国」を関連付けることは困難であるといえる。
今回の映像は、類推や憶測を抜きにして、「イスラーム国」名義の広報媒体を「公式」、「非公式」の基準である程度分別できたという点で、非常に示唆的であった。むろん、公式な広報媒体だからといって、そこから配信される情報までもが本当だという確証はない。また、どの作品が公式なのか、非公式なのかはその時々で変化することにも留意する必要があろう。
(イスラーム過激派モニター班)
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