中東かわら版

№51 フィリピン:「イスラーム国」を支持するジハード諸派による扇動映像

 6月21日、「イスラーム国」の広報が行われるインターネット・サイトにおいて、シリアの「イスラーム国」占拠地域で戦闘に従事していると思われるインドネシア人、マレーシア人、フィリピン人による扇動映像が配信された。映像に現れた戦闘員はアブー・ワリード・インドニーシー、アブー・アウン・マーリージー、アブー・アブドゥルラフマーン・フィリビーニーを名乗り、以下の内容を演説した。

  • 十字軍勢力はムスリムに対して戦争を仕掛けている。我々はイスラーム・ウンマを守るため、カリフ国家存続のためジハードを行う。ジハードはおまえ達(十字軍勢力)の家々にまで到達するだろう。
  • 「イスラーム国」のカリフ、バグダーディー師は、アブー・アブドゥッラー・フィリビーニーをフィリピンにおけるジハードの司令官に任命した。インドネシア、フィリピン、マレーシアのムスリム同胞は彼のもとに団結し、多神教徒、背教者、不信仰者に対するジハードに従事せよ。
  • カリフの地、シャーム(シリア、イラク)に移住せよ。移住できなければ、あなた方の土地でジハードに奮闘せよ。暴君政府の首領ども、政党、ウラマー、十字軍の権力の源や経済権益を攻撃せよ。

 映像の最後では、十字軍勢力のスパイとしてアラブ人と思しき3人の男が処刑された。

評価

 フィリピンでは2015年半ばにアブ・サヤフに属する一部の集団が「イスラーム国」に忠誠を誓った映像が出回って以来、これまでに数度「イスラーム国」の公式な広報配信ルートを通じて犯行声明や扇動映像が発表されている。今回の映像は、十字軍に対するジハードとカリフの地(シリア、イラク)への移住の呼びかけ、それが不可能ならば各々の土地でイスラームの敵に対してジハードを行うことを命じるという内容において、「イスラーム国」がこれまでに発表してきた扇動映像の論理とまったく同じである。メッセージの主眼は従来どおり、カリフの地への移住に置かれている。カリフ制の永続こそが「イスラーム国」の存在意義であり、そのためにはムジャーヒドゥーンをカリフの地に結集させることが必要不可欠であるからである。

 しかし、既に各国でイスラーム過激派対策が強化され始めている。そしてシリア・イラクへの移動は容易ではなくなっているため、「イスラーム国」を支持するジハード諸派がフィリピン政府高官、政治家、警察、軍、フィリピン国内の欧米諸国権益を攻撃する可能性に警戒すべきであろう。

(イスラーム過激派モニター班)

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