中東かわら版

№52 ヨルダン:国境警備隊施設への自爆攻撃

 2016年6月21日にヨルダンのシリアとの国境に近いルクバーンにあるヨルダンの国境警備隊の施設が自動車爆弾を用いた自爆攻撃にあい、国境警備隊員6名が死亡した。これについて、26日に「イスラーム国」の「通信社」を自称する「アアマーク」が「ルクバーンのアメリカ・ヨルダンの軍事基地に対する殉教作戦」と題する動画を発表した。なお、これはあくまで「通信社による報道」の体裁をとっており、現時点で「イスラーム国」による「犯行声明」やそれに類する動画は存在しない。

画像:「アアマーク」が発表した動画の一部

画像:「アアマーク」が発表した動画の一部

評価

 「アアマーク」は「イスラーム国」をはじめとするイスラーム過激派の広報活動の分野で「イスラーム国」に公式に属する機関と位置づけられているため、「今般の動画が「イスラーム国」が発信した作品である」という点については争う余地はない。そこで、分析・考察すべき点は、動画の信憑性や真正性や、なぜ「イスラーム国」自身の製作部門である「フルカーン」や「ハヤート」、或いは現地の実行部隊である各地の「州」や地域を経ずに、単に「通信社の報道」という体裁をとるのかという点であろう。このような形で「事実上の」犯行声明なるものが出回った事例としては、6月12日のアメリカのフロリダ州のナイトクラブ襲撃事件、13日のフランスでの警察官刺殺事件がある。いずれの場合も、実行犯がムスリムでSNSなどを通じて「イスラーム国」への忠誠や共鳴を表明したという特徴があるが、これまでのところ実行犯と「イスラーム国」を含むイスラーム過激派との組織的・人的な繋がり、襲撃を実行する上での支援や指揮が確認できないことも共通している。以上に鑑みると、「アアマーク」は世界各地でムスリムが引き起こす凶悪事件のうち、容疑者自身の情報発信などの材料がある適当なものを「イスラーム国」のプロパガンダやメッセージの中で位置づけ、あたかも「イスラーム国」の戦果であるかのように装って業績に取り込む機能を持っていると考えることができる。「イスラーム国」のラジオ局を自称する「バヤーン」についても、同様の機能を担っていると思われる。そのような場合、ムスリムによる凶悪犯罪を短絡的に「イスラーム国」の影響を受けたものとみなし、容疑者の言動やSNS上での活動についての報道が先行すると、「イスラーム国」にプロパガンダの素材を提供する結果につながりかねない。迅速な情報収集と報道が重要な行為であることは間違いないが、これが行き過ぎて拙速になると「イスラーム国」に奉仕する場合もありうるため、情報の受容や発信、分析に慎重な判断が必要となる。

(イスラーム過激派モニター班)

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