中東かわら版

№46 イスラーム過激派:「イスラーム国」の生態 逃亡する欧米人が増加

 2016年6月9日付のレバノンの『ナハール』(キリスト教徒資本)はAFPを基に、欧米出身者を中心に「イスラーム国」からの逃亡者が増加しているとして要旨以下の通り報じた。

  • 「過激化と政治的暴力についての国際研究所」(イギリスのキングズカレッジ)は、「イスラーム国」から逃亡した者およそ60名に対する聞き取り調査の結果として、逃亡の動機には空爆への恐怖、事前の想像とは異なる現実への失望、「イスラーム国」幹部の堕落と彼らによるスンナ派への迫害、「イスラーム国」に対する倦怠感を挙げた。
  • 上記の調査によると、「イスラーム国」から戦闘員が逃亡する動機は彼らが「イスラーム国」に向かった動機が多様なのと同様多岐にわたる。また、逃亡者の中には欧米での民主主義に否定的なものや、「イスラーム国」に在籍中に犯罪に手を染めた者が含まれる。
  • 逃亡者たちの証言によると、「イスラーム国」は今やアサド政権と戦うよりも周囲のムスリムを攻撃するほうに熱心である。「イスラーム国」はムスリムの権利を侵害し、イスラームの教えに従っていない。「イスラーム国」の下での暮らしは厳しく、抑圧的である。
  • 聞き取りを行った研究員の一人は、「逃亡した者の多くは、こんなことのために(シリアに)来たのではないと証言した。彼らの一人は、ムジャーヒドゥーンに対しシリアでのできごとはジハードではないので、シリアに行かないよう勧めた」と指摘した。
  • 逃亡者の多くは、「イスラーム国」に加わるという問題について熟慮せずに出身国を離れた。彼らの一部は理想的な国家、シャリーアが適用される理想社会に加わろうと欲した。別の一部は、冒険・連帯・重要な役割を欲した。しかし、彼らの多くは「イスラーム国」で日常的な暴力・蛮行・恐怖・抑圧・倦怠・無理解・差別に直面した。
  • 逃亡者の一人は、「イスラーム国」の幹部らは一人の人間を殺すために女・子供がいる建物を全壊させることをいとわないと証言した。また、インド人の元戦闘員は、「幹部らは自分にトイレ掃除をさせた。こんなものはジハードではない」と述べた。
  • フランスの情報機関の高官は、「戦闘員の「逆流」は既に始まっており、多くの戦闘員がわれわれに対し(フランスに)帰る方法を照会してきている。これらの戦闘員が「イスラーム国」から逃亡を試みた際、彼らは殺される危険にさらされる」と述べた。
  • フランスの内務省高官は議会に対し、2016年5月半ばまでに244名がフランスに戻っており、フランスへの帰国の意向を表明する者が増加している、これらの者が真に逃亡した者なのか、「イスラーム国」から何がしかの任務を受けている者なのかをいかにして判別するかという問題を懸念していると証言した。同高官によると、「イスラーム国」ではイラクやシリアを離れる意向を表明すること自体が裏切りとみなされ、即座に処刑されかねない行為である。

評価

 主に欧米諸国の報道機関、研究機関、情報機関から、「イスラーム国」での厳しい生活の実態「イスラーム国」で繰り返される粛清やムスリムへの虐待についての情報が多数発信されている。こうした情報には、「イスラーム国」が繰り返すプロパガンダに対抗する狙いもあるためそれが「イスラーム国」の状況の全体を代表するものとみなすことはできない。しかし、実際に少なからぬ人数が「イスラーム国」から逃亡し出身国に戻っている現状は、「彼らが本当に「イスラーム国」と縁を切っているのか」という疑念、何らかの任務を帯びて潜伏する工作員が紛れ込む危険性という新たな治安上の問題を生じさせている。その上、逃亡者への聞き取り調査は、逃亡者たちが単に「イスラーム国」の状況に嫌気がさしただけであり、出身国の社会の秩序を尊重する意志の乏しい者たちであることを示唆している。短慮にも「イスラーム国」に合流した者たちの一部には、実際に殺人や地元民の虐待に関与した者も含まれるであろうことから、そのような者たちの責任をいかに追及するかという問題も今後の焦点になるだろう。

(イスラーム過激派モニター班)

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