中東かわら版

№30 イスラーム過激派:モスルの最近の情勢

 5月23日付『シャルク・アウサト』紙(サウジ資本)は、イラクのモスルから脱出した住民や同地域に潜入する観察者とのインタビューを要旨以下の通り報じた。

  • (数日前にモスルからクルドのペシュメルガ軍の占拠地に逃亡した住民の言として)「イスラーム国」の戦闘員は、自らの指示に違反したり、苦情を述べたりする住民を殺害している。モスクで礼拝しない者は鞭打ちの刑に処され、7万5千イラク・ディナールの罰金を科される。喫煙、携帯の所持、パラボラアンテナの設置は禁止されている。
  • 地元住民に扮した「イスラーム国」のスパイがいる。タバコを販売した者は、ヒスバ(占拠地域を取り締まる「イスラーム国」の宗教警察)からタバコを販売している容疑をかけられたが、証拠がないとして否認した。後日、ヒスバは彼の良く知る知人(「イスラーム国」のスパイ)を連れてきて、容疑を認める旨の証言をさせた。この後、彼はプラスチックのチューブで鞭打ち50回の刑に処され、7万5千ディナールの罰金を科された。それ以降、彼はモスルを脱出するまで、一切外出しなかった。
  • (モスルの住民の言として)食料などの価格が市場で大幅に値上がりした。住民は、一日一回しか食事をすることができない。主食はソラマメとナツメヤシになった。食料はシリア国境を通じてモスルに入っている。薬は不足しており、病院は「イスラーム国」の負傷兵が占拠しており、住民は診断を受けることができない。
  • 「イスラーム国」の幹部や司令官は、商業店の店主や住民から税を取り立てて裕福な生活をしている。
  • 子どもや若者の逮捕が増加しており、彼らは捕らえられた後戦場に送られる。女性は外国人戦闘員に無理やり分配される。女性がこれを拒否した場合、石打ちの刑に処されるので、女性達は家に隠れている。
  • (モスルにいる観察者の言として)モスルでは、質の悪いガソリンは1リットル1500ディナール、小麦粉は一袋で6万ディナール、米一袋は7万ディナールに値上がりした。
  • 最近の戦闘での敗走を受け、地元住民は「イスラーム国」から容疑をかけられたり、侮辱されている。4月から5月上旬までの間に住民80名が死刑に処された。住民に対する取締りが厳しくなり、同期間の間に400名が捕らえられた。
  • モスル解放を目的とする攻撃に対処すべく、「イスラーム国」はモスルの各入り口や同市の北部、南部、東部で堀を掘っている。

評価

  「イスラーム国」が占拠地域で働く蛮行や地元住民からの搾取などについては、情報が多く出回っている。今回の報道もその一つと考えられ、モスル在住の数名のインタビューに基づいているとはいえ、モスルの近況をある程度描いていると推定される。特に、主食の(おそらく小麦から)ソラマメやナツメヤシへの変化は、現地の食糧事情の悪化を殊更示していよう。

 また、占拠地域の情勢に関する新たな点として、地元の住民同士の間で、ある種の不信感が広がっている模様である。概して、地元住民の逃亡の原因は、「イスラーム国」にあると考えられてきており、そこでは「イスラーム国」対地元住民という構図が、しばしば想定されてきた。だが今回の報道からは、何らかの理由で「イスラーム国」によって懐柔されたとみられる地元住民が、同じ地元住民に不利な言動をするという情報がある。この情報が正しいとすれば、占拠地域から地元住民が逃亡するプッシュ要因に、地元の住民同士の不信感、すなわち地元社会の分断があると考えられる。

 そもそも、「イスラーム国」が地元住民の取り込みや「統治」に成功していれば、こうしたスパイは必要ないはずである。つまり、こうしたスパイの存在は、彼らの統治がプロパガンダ映像などの中で示されるように順調に進んでいないこと、加えて、「イスラーム国」自体、地元住民に不信感を抱いているがために、地元住民の従属のためにスパイを必要としていることを示していよう。

 しかし、スパイの存在が、統治の実現に寄与することなく、住民の間に分断を生み、逃亡を引き起こしているとすれば、「イスラーム国」の地元住民に対する取り締まりは一層激化することが予想される。そうした取締りの強化は、地元社会のさらなる分断に事態を発展させるだろう

(イスラーム過激派モニター班)

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