中東かわら版

№29 イラク:サドル派のデモ隊のグリーンゾーン突入と政情の混乱

 2016年5月20日、主にサドル派からなるデモ隊がバグダード市内のグリーンゾーンに突入し、アバーディー首相の事務所に乱入した。突入の際、治安部隊が音響爆弾や催涙弾を使用して鎮圧を図った上、一部は実弾を発砲した。治安部隊とデモ隊との衝突により、2名が死亡、数十名が負傷した。デモ隊がグリーンゾーンに突入するのは4月30日に続いて2度目で、このときには国会議事堂が一時占拠された。

サドル派等は、2015年夏に電力不足への抗議や政治改革要求のためデモを行っていた。アバーディー首相はこれに押される形で宗派に基づく役職配分の廃止を含む行財政改革案を閣議決定したが、改革措置がほとんど実行に移されなかったため2016年春から再び抗議行動が活発化していた。

 

評価

 現在、イラクの政情は国会が機能不全をきたし、そのため現在懸案となっている閣僚の選任も不可能となっている。さらに、現在のバグダードの治安情勢を懸念してクルド人議員がバグダードを退去している上、デモ隊によるグリーンゾーン突入を繰り返すサドル派とその他の党派との溝が広がっており、諸政治勢力の間で事態打開の機運は醸成されていない。

 しかし、このような事態に至った責任は連邦議会の諸会派だけのものではない。例えば、クルド人の会派は連邦政府とクルド自治政府との関係が緊張するたびに審議拒否を繰り返しているし、ナジャフを拠点とするシーア派の宗教界の指導者らは政治改革要求を繰り返し、今般のデモを含む抗議行動を正当化してきた。現在のイラクの政情の混乱は、政治に参加する多くの当事者の間で「他の当事者と合意を形成するよりも、個別の利害を前面に出してごねたほうが得」との行動様式が定着した結果であり、この点で宗教・宗派集団や民族集団ごとに権益を配分し、各々集団が政治的決定に拒否権を持つ「多極共存型」民主主義の運用に失敗していることは明らかである。

(髙岡上席研究員)

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