中東かわら版

№31 イスラエル:ヤアロン国防相の辞任と連立交渉

   5月20日、イスラエルのヤアロン国防相(リクード)は、国防相及び国会議員を辞任し、一時的に政界から身を引くことを表明した。ヤアロン国防相は、辞任の理由としてリクード党首で首相であるネタニヤフへの信頼をなくしたことをあげ、国家の基本的な問題に対応する際には、道徳的な指針が必要であるとネタニヤフ首相を非難している。

   ネタニヤフ首相は、連立政権(現在120議席の議会で61議席占める)の拡大を狙い、左派の「シオニスト・ユニオン」と協議を行なっていたが、ヘルツォグ党首は、18日の記者会見で、連立協議を17日で打ち切ったことを明らかにした。18日、ネタニヤフ首相は、極右政党イスラエルベイテヌ(イスラエル我が家党、6議席)のリバーマン党首と会談し、同党の連立政権参加で合意した。ネタニヤフ首相は、リバーマン党首に国防相のポストを提示したほか、ロシア移民(1990年代にイスラエルに大量に移民)への年金供与で配慮することなどに同意している。ネタニヤフ首相は、ヤアロン国防相に、国防相ポストをリバーマン党首に提示したことを伝え、ヤアロンを自分が兼任する外相に就任させる考えを伝えたと報道されている。しかし、ヤアロン国防相は、新連立政権が成立する前に、国防相と国会議員の辞任を表明した。 

 

評価 

   ネタニヤフ首相とヤアロン国防相は、最近軋轢を強めていた。3月下旬、ヘブロンで、イスラエル軍兵士が負傷したパレスチナ人を至近距離から射殺した事件で、ヤアロン国防相は、発砲した兵士を軍規違反で起訴するとした参謀総長判断を支持した。ネタニヤフ首相も当初は兵士の起訴を支持したが、世論が発砲した兵士に同情的になると態度を変えたといわれる。また5月4日、ホロコースト記念日の演説で、ゴラン参謀次長が、1930年代のドイツにあった不寛容が、今のイスラエルで増大していることに懸念を表明すると右派及び極右政治家らは、参謀次長発言を非難した。ネタニヤフ首相も、参謀次長の発言には批判的だったとされたが、ヤアロン国防相は、政治的潮流を気にせず、自分の思うことを自由に発言するよう軍幹部に求めた。両者は、5月16日に会談し、軍幹部の発言について意見調整を終えたとしていたが、メディアは、両者の関係はまったく修復されておらず、今後も両者の確執は続くと報道していた。 

 イスラエルベイテヌの連立参加は、5月24日までには決定するといわれていたが、連立入りの条件をめぐりまだ協議が続いているようだ。与党の「ユダヤの家」党(極右政党)のベネット党首(教育相)は、イスラエルベイテヌの政権入りを認める条件として、イスラエル軍のガザ攻撃(2014年)の調査などの条件を出していると報道されている。リバーマン党首は、まだ国防相に就任していないが、同人の国防相就任について懸念する意見がイスラエルだけでなく米国のメディアでも表明されている。5月23日の米『NYT』紙は、リバーマンの国防相就任に強い懸念を表明する社説を掲載している。尚ヤアロンが国会議員を辞任した結果、繰上げ当選になったのは、リクード内でも極右政治家とされるイェフダ・グリックで、同人は、東エルサレムの聖地に対するユダヤ人の権利拡大を主張する活動家である。 

 イスラエルベイテヌが連立内閣に参加した場合、現在の右派内閣はさらに右寄りの内閣になる。イスラエル政府の政策全般が一層右寄りになり、国内のイスラエル・アラブや左派勢力に対する締め付けが強化され、国際的な孤立をさらに深めることが懸念される。リバーマンが国防相になった場合、極右政治家が国防の責任者となることで、過激な対パレスチナ政策を軍に要求する危険性だけでなく、イスラエル軍幹部との軋轢増大、対エジプト関係、対米国関係の悪化など、イスラエルの安全保障の根幹にかかわる問題になる危険性がある。またイスラエルベイテヌが参加した政権が、中東和平問題で前向きの対応をする可能性はさらに小さくなるだろう。 

 ヤアロンも含め、リクード党内で頭角を現し、党の次期指導者候補と目される有望政治家たちがネタニヤフ首相との関係を悪化させ、離党あるいは政界から離れるケースが増えている。ネタニヤフ党首は、自分の政権維持には熱心であるが、党の後継世代を育成する意思がなく、むしろ自分のライバルになるとして次期指導者世代の排除に努めていることが一層明瞭になりつつある。 

(中島主席研究員)

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