中東かわら版

№25 リビア:欧米・アラブ諸国が対リビア武器禁輸措置の解除を支持

 5月16日、ウィーンで行われたリビアに関する国際会議に参加した欧米・アラブ21カ国及び4組織(EU、UNSMIL(国連リビア支援ミッション)、アラブ連盟、アフリカ連合)は、リビアの統一政府GNA(国民合意政府)にテロ組織との戦いに必要な武器支援や訓練を行うため、国連による対リビア武器禁輸措置の解除を支持する旨発表した。今後、GNAは国連にテロ組織との戦いに必要な武器リストを提出し、安保理で武器禁輸解除申請が審理される。武器禁輸解除に合意した21カ国には、安保理常任理事国の5カ国が含まれている。

 共同コミュニケの要旨は以下の通り。

  • リビア政治合意(2015年12月)への支持、国民合意政府(GNA)をリビアの唯一正統な政府とすること、国連安保理決議2259への支持を確認する。GNAと平行して存在する諸機関(東部トブルク政府、西部トリポリ政府、及びこれらを支持する諸機関)への支援及び接触を停止する。
  • 治安こそがリビアの将来を決定する。我々は、リビアの正統な国軍と治安部隊が速やかに統一司令部を設置し、これらが「イスラーム国」や国連指定テロ組織(アンサール・シャリーア)と戦う必要があると認識している。リビアが一致団結してテロと戦わなければならない。
  • 我々は、GNAや近隣諸国と共に、地中海全体とリビア国境における脅威に取り組みたい。リビア政府(GNA)の要請に基づき、大統領警備隊及びリビア国内の特定勢力(vetted forces)を訓練し、装備を提供する準備がある。
  • GNAは、国内の「イスラーム国」や国連指定テロ組織との戦いに必要な武器・装備を調達すべく、国連リビア制裁委員会に武器禁輸措置からの除外を申請する意思を表明した。我々はGNAの努力を完全に支持する。

 

評価

 GNAだけでなく、東のトブルク政府、西のトリポリ政府も、リビアにおける内戦終結とテロとの戦いに必要なことは諸外国による軍事介入ではなく、武器支援であるとして、以前より国際社会に対して武器禁輸措置の解除を求めてきた。エジプト、チュニジア、アルジェリアなどリビアと国境を接する国々も軍事介入には反対を表明し、特にエジプトが武器禁輸措置の解除を支持していた。欧米諸国も、2011年のリビア介入の「失敗」を踏まえ、軍事介入の可能性が報じられるたびにこれを否定してきた。このような状況で、国際社会がようやく武器禁輸措置解除を支持するという動きに出た。EU、アラブ連盟、アフリカ連合という主要地域組織に加えてUNSMILが支持し、さらにロシアと中国を含む安保理常任理事国すべてが賛成しているため、安保理で決議案が採決されれば可決される可能性は高い。

 しかし、武器禁輸措置の解除はリビアの内戦の火に油を注ぐ危険性も孕んでいる。まず、現在のところ、武器の提供先が事実上存在しない。欧米・周辺アラブ諸国はGNAを「唯一正統なリビアの政府」と言うものの、リビア政治合意で定められたGNA成立の手続き、「代表議会によるGNAの承認」が済んでおらず、GNAの法的立場は曖昧なままである。その上、GNAが統括できる軍事組織が存在するのかきわめて曖昧な状況にある。「大統領警備隊」は設立が発表されたばかりで、その正体は不明である。ミスラータの民兵組織をはじめ複数の民兵組織がGNAへの支持を表明したが、支持の理由には民兵組織どうしの対立を自派に有利に運ぼうとする思惑が見え隠れする。当然ながら、東部にはGNAに反対する民兵組織が多く、その中心にはハリーファ・ハフタル国軍総司令官がいる。

 このようにGNA傘下に統一軍事組織が存在しない現状を諸外国は理解しているために、共同コミュニケには、「リビア国内の特定勢力を訓練し、装備を提供する」と書かれたのだろう。ここで、どの武装勢力を軍事訓練と武器提供の対象とするのか、という問題が浮上する。武装勢力の最大の関心は支配地域をめぐる他武装勢力との戦闘であり、GNAへの支持もこれに利用される可能性が高い状況において、軍事支援を提供する武装勢力の選定はきわめて難しく、慎重に行われなければならない。これを間違えれば、リビア内戦をさらに激化させることになるだろう。

(研究員 金谷 美紗)

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