中東かわら版

№4 エジプト:ヒシャーム・ギニーナ中央会計監査庁長官の解任

 3月28日、シーシー大統領は、2015年の国家機関の汚職による損失額は6000億ポンドであるという告発をしたヒシャーム・ギニーナ中央会計監査庁長官を更迭する旨の大統領令を発出した。大統領令発出の数時間前に、同件を捜査した最高国家治安検察庁が、ギニーナ長官が示した6000億ポンドという額は実際は2012年にまで遡って算出された虚偽の数字であるとの報告を出しており、これにもとづき更迭が決定されたと考えられる。同長官は、2014年から国家機関の汚職を指摘する発言をしており、シーシー大統領を支持する政治家やメディアから、「国家の名誉を傷つける虚偽情報」や「(ムルシー政権期に任命されたため)ムスリム同胞団支持者である」などの批判を浴びていた。

 中央会計監査庁は国家機関の会計を監査する独立機関で、2014年に成立した憲法では、長官は議会過半数の賛成ののちに大統領によって任命され、法で規定された場合以外は解任できないとされている。この部分につき、シーシー大統領は2015年夏に、国の独立行政・金融機関の長を「国家の安全に脅威を及ぼす場合に大統領が解任できる」とする大統領令を発出しており、今回の解任は同大統領令に基づく。メディアでは、この大統領令はギニーナ長官を解任するためのものと広く報じられていたため、解任はある程度予想されていた。

 長官側の弁護士は、中央会計監査庁の内規では大統領による長官の解任は不可能となっており、議会での内規修正が済んでいない時点で解任を実行したのは違法であると主張している。議会は大方、ギニーナ長官に批判的であるが、エジプト社会民主党(4議席)は、国民に汚職への反対を約束した政府が汚職を告発した長官を解任するのは、政府がファシズムの方向へ進んでいるのを示していると批判した。

評価

 シーシーが大統領に就任して以来、イスラーム主義者・非イスラーム主義者を問わず、政府の方針を批判する者を「国の安全を脅かす」という理由で排除する傾向が強まっている。

 ギニーナ長官の解任もこの流れの一環として理解できる。汚職の存在が告発された部門が大統領府、司法府、土地・都市開発に関わる諸機関、銀行、石油部門など国の最重要部門にまたがるために、政府は同長官をシーシー政権の正統性を揺るがしうる危険な存在として排除したのだろう。しかも、ギニーナ長官は警察、検察庁、裁判所、中央会計監査庁を渡り歩いたキャリアの持ち主で、国家機関の内情をよく知りうる人物である。国家機関の内部にいる人物による内部情報の暴露は、政府にとって殊更脅威と認識されたことは想像に難くない。1月に検察庁が本件に関する報道を禁止したこと、最高国家治安検察庁が本件を捜査したことが、政府にとって本件がセンシティブな問題であることを表している。

(金谷研究員)

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