中東かわら版

№3 レバノン:サウード家を中傷する横断幕問題

 2016年4月3日、ベイルート郊外の歩道橋に「サウード家を中傷する」内容の横断幕(下図)が掲げられ、治安部隊がこれを撤去する事件が起きた。さらに、レバノンのリービー内相が検察当局に横断幕の掲揚に関与した者を逮捕するための捜査をするよう要求、4日の時点で関係者3名が拘束された。捜査や拘束について、リービー内相は横断幕の掲揚がレバノンとサウジとの関係や、レバノンとレバノン人の利益を損なう行為であると主張しているが、レバノンの『ナハール』(キリスト教徒資本)紙の報道を見る限り、治安部隊が横断幕を撤去したり、関係者が拘束されたりする法的な根拠は示されていない。

 一方、これに先立つ4月1日、サウジ資本の『シャルク・ル・アウサト』紙に「エイプリルフール」の風刺画として下のとおりの風刺画が掲載された。

 この風刺画は、レバノン国家の存在そのものが「エイプリルフール」の戯言同然の空疎な存在であると解釈されかねない内容のものだったため、これに激高したレバノン人の暴徒約10名がベイルート市内の『シャルク・ル・アウサト』紙の事務所を襲撃し破壊活動を行った。この事件については、4日までに7名が逮捕されている。

評価

 レバノンは、言論や政治活動の自由を圧迫する非民主的な政体が多数を占めるアラブ諸国の中で、言論活動の自由が比較的広く認められる国として知られていた。今般の騒動は、風刺画が理由で新聞社の事務所が襲撃を受けたり、サウジの王家への批判を警察が抑えにかかったりするなど、言論・思想信条・表現活動に関するレバノンの環境に鑑みると異例とも言える事態となっている。騒動の背景としては、過去数年にわたり国会も大統領も任期切れの状態にあるレバノンの政情や、中東地域の紛争や外交上の競合でサウジに批判的・敵対的な雰囲気があることが考えられる。レバノンは著名な報道機関や出版社の拠点となっていることから、今回のような騒動が政治問題、外交問題として拡大するようならば、レバノンにとどまらずアラブ諸国全体の言論環境の悪化につながることも懸念される。

 なお、本稿は騒動の当事者のいずれかに与するものでも、当事者を貶めることを意図したものではない。画像・風刺画は、日刊紙に掲載されたもので、SNSを通じて広く流布しており、本稿の内容の理解を促進するために掲載した。

(髙岡上席研究員)

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