中東かわら版

№68 サウジアラビア:アシール州の治安部隊基地での自爆攻撃

 2015年8月6日、サウジ南西部のアシール州アブハー市にある治安部隊基地内のモスクで、昼の礼拝時間中に爆破事件が発生、治安部隊兵12名を含む15名が死亡した。この事件について、「イスラーム国 ヒジャーズ州」名義で犯行声明が出回った。犯行声明によると、事件はアブー・シナーン・ナジュディーが爆弾ベルトを用いて治安部隊の拠点に対して行った殉教作戦である。また、声明は攻撃対象となった治安部隊はサルール家(注:サウード家の蔑称)、十字軍をアラビア半島に存在せしめ、一神教徒を虐待する上で役割を果たしていたと主張した。

画像:「イスラーム国 ヒジャーズ州」が発表した犯行声明。

評価

 サウジでは、5月にシーア派のモスクに対する自爆攻撃が2件、7月にはリヤード近郊の刑務所付近で1件の自爆攻撃が発生し、いずれも「イスラーム国 ナジュド州」名義の犯行声明が出回った。今回は「ヒジャーズ州」なる新たな名義が現れた。サウジでの「イスラーム国」を名乗る爆破事件は当初シーア派に対する攻撃であったが、最近の2件については同国の治安部隊、ひいては王家そのものを対象とするかのような様相を呈している。サウジ国内での攻撃がシーア派を標的とするものから、治安部隊の基地をも対象とするものとなった以上、同国の体制側としても放任することはできないだろう。

 一方、サウジは長年世界各地のイスラーム過激派にとって重要な資源の供給地となってきた。また、宗教・報道分野で自国が関係する紛争や対立を宗派主義的に解釈し、シーア派をはじめとする他宗教・他宗派に対する攻撃的言辞を弄することが横行してきた。このような環境こそがサウジ国内、或いはサウジ人の間で「イスラーム国」に共感し支持を寄せる風潮を醸成してきたものである。そこで、サウジの体制が最近の「イスラーム国」による攻撃を王家や体制に対する攻撃として認識して治安上の措置だけで押さえこめば、イスラーム過激派の温床となっている国内の社会的環境は温存されることになる。この状況は、資源の調達先としてのサウジを喪失する「イスラーム国」を衰退させることにつながるだろうが、イスラーム過激派の台頭や拡散の原因に対処したことにはならない。すなわち、仮に今般サウジ国内で「イスラーム国」の活動を鎮圧できたとしても、イスラーム過激派の思考・行動様式への共感が生じやすい同国の社会環境を源泉とする新たな現象の発生を抑制・防止することにはならないのである。

 サウジで発生した「イスラーム国」による事件の実行者はいずれもサウジ出身者を称する人物であり、サウジにおける「テロ」はイラクやシリア、或いは他のどこかから拡散してきたものではない。同国の体制には、一連の攻撃や「イスラーム国」を生じさせた原因を見据えた真剣な対応が必要となるだろう。

(イスラーム過激派モニター班)

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