中東かわら版

№67 エジプト:「シナイ州」によるクロアチア人誘拐事件

 2015年8月5日深夜(日本時間)、インターネット上で「イスラーム国 シナイ州」名義で「エジプト政府へのメッセージ」と題する動画がみつかった。動画は75秒ほどの長さで、フランス企業のカイロ支社に勤務するクロアチア人Tomislav Salopek氏が短い文書を読み上げている。

 文書によると、同氏は7月22日にカイロにて「カリフの兵士たち」に誘拐され、「今から48時間以内に」(動画が出回った時間からすると日本時間の7日23時ごろ)エジプトの刑務所にいる女性囚人全てを解放しなければシナイ州の者に殺されると述べた。

評価

 「シナイ州」は、「エルサレムの支援者団」との名称で活動していた武装勢力が2014年11月にバグダーディーに忠誠を表明し、「イスラーム国」の「州」を名乗るようになったものである。同派は、シナイ半島を中心に活動し、主な攻撃対象はエジプトの官憲だった。一方、7月にはカイロのイタリア領事館に対する爆破事件が発生しており、「イスラーム国」を称する犯行声明が出回っていた。領事館爆破については「シナイ州」とは異なる名義の声明が出回ったが、イスラーム過激派武装勢力の活動範囲がシナイ半島の辺境部に限られ、カイロや主要な観光地には及んでいないとの認識を改めるべき局面に差し掛かっていた。今般の事件についても、フランス企業に勤めるクロアチア人が被害にあっており、「シナイ州」が自ら被害者を誘拐するだけの体制を構築して犯行に及んでいた場合は、欧米諸国、特に外見から「白人・キリスト教徒」と判断されるような者が攻撃対象となる危険性が上昇したといえるだろう。

 但し、今般の映像では、「エジプトで収監されている女性全ての解放」という荒唐無稽とも言える要求が提示されたものの、クロアチアに対しても欧米諸国に対しても何のメッセージも発信しておらず、「囚人奪回、同胞援護」という態度を表明した以外に特に見るべきところはない。なお、「シナイ州」は名称を変更する以前からエジプトの兵士や警官などを予告も警告もなしに斬首・銃殺する処刑映像を盛んに発信している。

(イスラーム過激派モニター班)

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