中東かわら版

№184 イスラーム過激派:「イスラーム国」がブリュッセルの襲撃事件の犯行声明を発表

 2016年3月22日夕刻(日本時間)、ベルギーの首都ブリュッセルの国際空港と地下鉄で爆破事件が発生、30名以上が死亡した。この事件について、23日早朝(日本時間)、インターネット上で「イスラーム国」が事件は自らの作戦であると主張する声明を発表した。

画像:「イスラーム国」が発表した犯行声明(アラビア語版)。

 声明は、襲撃を「カリフの兵士“複数が”爆弾ベルト、爆弾、マシンガンで武装して」襲撃を実行、「十字軍の者を殺害した上で、彼らの集団の中で爆弾ベルトを爆発させた」と描写した上で、「「イスラーム国」に対する十字軍の侵略に反撃し、十字軍同盟諸国に暗黒の日々を約束する」と更なる攻撃を行うと脅迫した。

評価

 「イスラーム国」が発表した文書は、襲撃犯の人数や襲撃先の駅名に言及していないなど、襲撃やその準備について十分情報を持っている書き手の作品か疑わしいものがある。また、ベルギーを「十字軍」と形容したり、攻撃対象を「十字軍同盟」と呼称したりするのは「イスラーム国」に限らずイスラーム過激派の常套句であり、こうした表現をはじめ今般出回った声明の内容では事件についての「なぜ、どうして」はわからない。さらに、爆破された地下鉄駅の周辺にEU本部が立地しているが、こうした点に言及して広報を行うほうがはるかに効果が上がるはずであるが、この点についても言及がない。

 ベルギーはかねてから「イスラーム国」をはじめとするイスラーム過激派へのヒト、モノ、カネなどの資源の供給地として注目されていた場所であり、同国にイスラーム過激派のために人員の勧誘や密航・潜伏支援、思想的な教化などを行うそれなりに広く強固な組織的基盤があったのはほぼ確実である。そうした中で、2015年1月の「シャルリー・エブド」事件などを契機にEU域内でのイスラーム過激派に対する取り締まりは徐々に強化されていた。そうなればEU域外に資源を送り出すことが妨げられたり、実際に活動家を摘発されたりするイスラーム過激派の組織やネットワークと、EU諸国の官憲が衝突する可能性や、EU域内で攻撃事件が起こる可能性は上昇することになる。今後も、ベルギーを初めとするEU諸国がイスラーム過激派に対する取締りや摘発を強化すれば、短期的には治安上の危険度は上昇することとなろう。しかし、外国にテロリストや犯罪者を送り出すことによって自国の安定を維持しても、それは自らの負担を他国に転嫁していることに過ぎないため、EU諸国が自らの責任で国内のイスラーム過激派を取り締まることはむしろ当然のことといえる。

(イスラーム過激派モニター班)

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