中東かわら版

№182 シリア:日本人の拘束情報

 2016年3月17日未明(日本時間)、日本人の安田純平氏が何者かに囚われていると述べる映像が発表された。安田氏は、2015年6月にシリアやトルコ南部に出されている海外安全情報を無視してトルコ経由でシリアに潜入していた。映像は、日本の報道機関に寄せられたもので、後にfacebookでも公開された。1分10秒ほどの映像中、安田氏は家族へのメッセージと「my country」へのメッセージとして話をしたが、その中には自分を捕らえた主体やその要求事項、或いは脅迫的な内容は含まれていない。また、映像の背景や映像中に安田氏を捕らえて今般の映像を作成した主体の身元や安田氏の所在地を判断できる材料は含まれていない。

 

評価

 今般の映像とその内容からでは、安田氏を捕らえた主体が何かは判断できない。現時点で憶測に基づく過剰反応をすべきではない。その一方で、安田氏が潜入した地域はシリアにおけるアル=カーイダである「ヌスラ戦線」を始め、外国人戦闘員と彼らを手引きする武装勢力が跋扈している。安田氏を捕らえたのは「ヌスラ戦線」だとの説もある。映像に要求事項や脅迫的言辞が含まれていないため、犯行主体の意図も不明である。安田氏の関係者や日本政府に対し接触の端緒を作ろうとした可能性もある。今後の状況推移についてはいくつかの可能性を想定できよう。

  • 「ヌスラ戦線」の犯行の場合:「ヌスラ戦線」はシリアにおけるアル=カーイダであり、人質に関する要求事項や広報でアル=カーイダの関心事や手法を反映した行動を取る可能性がある。その場合、アメリカで収監されているイスラーム過激派の著名な囚人やシリア政府軍に囚われている自派の戦闘員・活動家の解放などを要求することが予想される。ただし、「ヌスラ戦線」は通常映像や文書を発表する際は、自派の公式アカウントを通じ、製作元の名称・ロゴを明記しており、今般の映像はこうした行動様式に合致しない。
  • シリアの「反体制派」武装勢力の犯行の場合:金銭や捕虜交換の要求を出すことが予想されるが、この場合でも組織の名称や要求事項を明示しない映像を発信した意図は不明である。また、今後金銭的な要求だけが出る場合、独裁政権と戦う善良な人々、との「反体制派」全体のイメージを著しく損なうこととなろう。
  • 身代金目当ての犯罪集団の場合:交渉による人質の生還の可能性が高くなるが、どのような主体とどのように接触・交渉をするかが難しくなることも予想される。

いずれの場合にせよ、シリア領内に武装勢力、テロ組織、犯罪集団が跋扈くする無法地帯が存在することが今般の事件の原因であり、武装勢力やテロ組織はシリア国外でヒト・モノ・カネなどの資源を調達し、トルコ経由でシリアに送り込んでいる。また、「ヌスラ戦線」はトルコやサウジが支援する武装勢力の連合体の主力をなしている。安田氏の解放のための試みには、様々な武装勢力の兵站・広報拠点となり、一部の組織を支援しているトルコへの働きかけが重要となろう。また、この種の事件では相手方との交渉の窓口をつかむことが課題となるが、交渉やインタビューを持ちかけて新たな人質を獲得する策略が講じられる可能性もあるため、二次被害を招かないための配慮も必要となろう。

(髙岡上席研究員)

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