中東かわら版

№181 エジプト:シーシー大統領の訪日

 シーシー大統領は、2月29日~3月2日の日程で日本を公式訪問した。29日、エジプトの大統領としては初めて日本の国会で演説を行い、日本との教育分野での協力強化に多大な関心があることや、日本がエジプトの様々な経済開発プロジェクトに投資することを歓迎すると述べた。また多くの日本人がエジプト観光に訪れるように、観光客の安全確保に努力するとも述べた。安倍総理との会談では、政治・安全保障分野、教育・文化分野、経済・社会発展分野における二国間協力、地域と国際社会の平和と安定に向けた協力について複数の合意がなされた。1日には、皇太子殿下との会見が行われた。

 3日間の日程で、日本・エジプト間で合意された主な内容は以下のとおり。

  • 外交・防衛当局間の安全保障対話の定期的実施
  • 日本はテロ対策に資する民生品等の供与を含むテロ対策関連の協力を強化する
  • 「エジプト・日本教育パートナーシップ」の立ち上げ:今後5年間で2500人以上のエジプト人学生・インターンを受け入れる
  • 「電力セクター復旧改善計画」(約411億円)に対する新規円借款の供与
  • 日本企業が参画する総額2兆円規模の事業に係る文書への署名

評価

 今般の訪日でエジプト側が日本に期待することは、エジプト経済の回復に寄与する投資、人材育成、日本人観光客の復帰である。日本が新規の円借款を提供する「電力セクター復旧改善計画」では発電所の復旧再建、増強、建設が予定され、昨今のエジプトにおける深刻な電力不足問題の解決が期待されている。エジプト政府が大規模経済プロジェクトとして世界各国からの投資を呼びかけている「スエズ運河経済特区(SCZone)」についても、日本企業とSCZone庁との間で同区域における発電所建設などに関する覚書が交された。「エジプト・日本教育パートナーシップ」では、エジプトにおける若者の雇用機会を拡大し、若者層の不満を取り除くことが目指されるだろう。また、シーシー大統領が国会で演説したように、深刻な外貨不足に悩むエジプトにとっては一刻も早く治安を改善し、日本人を含む外国人観光客数を増やしたいところである。

 政府の予定では、2020年までにSCZoneの各種インフラを整え、その後企業の操業、住宅地の建設が始まるようである。国内外の民間企業をどれだけ誘致できるかが同プロジェクトの成功を左右することになるが、現時点での問題は企業に課せられる所得税22.5%とスエズ運河周辺の治安であろう。アフマド・ダルウィーシュSCZone長官は税率引き下げに積極的だが、政府は引き下げないという立場を変えていない。また、SCZoneが北シナイとデルタ地域の中間に位置することからテロ事件が懸念されるが、スエズ運河周辺は軍管理地域であるために武装勢力の侵入は容易ではなく、2011年以前・以降、武装勢力による攻撃事件はほとんど発生していない。しかし今後、事件が発生する可能性は否定できない。

 他方、日本にとってのシーシー大統領訪日の重要性は、外交・治安当局者の定期交流で合意したことで、中東地域における軍事・治安情勢を定期的にフォローアップする体制を整えたことであろう。2015年1月にシリアで起きた「イスラーム国」による邦人殺害事件、同年3月にチュニスで起きた博物館襲撃事件で邦人が犠牲となった事例を踏まえ、日本は中東地域情勢の理解と迅速な対応が求められている。

(金谷研究員)

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