中東かわら版

№180 シリア:ロシア空軍の一部撤収

 2016年3月14日、アサド大統領はロシアのプーチン大統領と電話会談し、シリアで活動するロシア空軍を削減することで合意した。プーチン大統領はロシア軍に対し空軍の引き上げを指示し、15日にはラタキア県内の空軍基地からロシア軍機や装備が撤収するのが確認された。これについて、レバノンの『サフィール』紙(親左翼、親民族主義)は今般の措置の背景として要旨以下の通り報じた。

  • 今般の措置は、アメリカのオバマ大統領とプーチン大統領との合意の下、ジュネーブでの対話を成功させることを目的に講じられたものである。オバマ大統領は退任前にシリアにおける政治的実績を欲している一方、プーチン大統領は軍事的負担の緩和や欧米諸国からの対ロシア制裁の緩和を欲している。
  • ロシア空軍の削減は、ロシア軍の活動をシリア紛争の解決の障害であると主張する西側諸国、湾岸諸国、シリアの反体制派に対し、紛争解決のための行動を促すものである。
  • シリアの軍事情勢についてのロシアの評価とシリア、イランの評価は一致していない。前者は現時点で決着をつける必要があると考えている一方、後者はさらに政治的得点を得ようとしている。
  • ロシアは、シリア政府やイランに偏重するのではなく、湾岸諸国やシリアの反体制派にも通じることにより、シリア紛争解決の鍵を握る存在となろうとしている。そうすることにより、地域における影響力を保とうとしている。
  • ロシアは「(シリアでの)任務の大方を達成した」との声明を発表しているが、実態はこれとは異なる。「イスラーム国」との戦いは続いているし、ロシアに対する危険性はいまだ大きい。
  • タルトゥース港とフマイミーム空港のロシア軍基地は存続しているし、ロシア軍の防空システムも稼動し続けている。
  • イランが今般のロシアの措置に不満なのは明らかだが、今後イランはシリアから手を引くようにとの圧力にさらされるか、シリア紛争を長期化させていると非難されるかとなる。

評価

 シリア紛争の当事者諸国は、いずれも自国の政治的な利益を実現するために紛争に関与している。今般のロシア空軍の一部撤収や14日から始まったジュネーブでの対話会合が、政治的成果を上げようとするアメリカとロシアの意向に沿ったものならば、紛争の展開や解決の過程でシリア人民が疎外されている現状を大きく変えるものとはならないだろう。また、ロシア軍の一部撤収により2月末からの「戦闘行為の停止」が維持・強化されるとの保証もない。なぜなら、「イスラーム国」やシリアにおけるアル=カーイダである「ヌスラ戦線」は「戦闘行為の停止」の対象外であり、現在もパルミラを奪回しようとするシリア軍の作戦は続いているし、レバノンの『ナハール』紙(キリスト教徒資本)はロシア軍がこの作戦を支援する空爆をしていると報じている。また、『ナハール』紙は「ヌスラ戦線」の指揮官の一人がロシア軍の一部撤収に乗じて48時間以内に大規模な攻勢をかけると表明したと報じており、「ヌスラ戦線」の活動地域の周辺で戦闘が激化することも予想される。「ヌスラ戦線」は、武装勢力の連合体でサウジとトルコからの支援を受ける「ファトフ軍」の主力であり、「反体制派」の連合体を隠れ蓑に占拠地域を拡大してきた。また、「ヌスラ戦線」はアメリカの支援を受ける反体制派武装勢力を度々撃破・制圧し、装備や物資を奪取している。このように、シリア紛争を長期化させる要因はシリア政府、ロシア、イランのような当事者にだけ存在するのではなく、「反体制派」に信頼に足る受け皿がないことや、最終的にイスラーム過激派を利することを承知で「反体制派」を支援し、正当化する側にもある。ロシア軍の一部撤収がシリア紛争に及ぼす影響や、ジュネーブの会合の成否を判断する上では、現在の状況を受けイスラーム過激派や彼らに従属する「反体制派」へのヒト・モノ・カネなどの資源の供給を確実に遮断できるかが重要な要素となろう。

(髙岡主席研究員)

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