中東かわら版

№176 イスラーム過激派:「イスラーム国」で造反、反乱が多発?

 「イスラーム国」が占拠している地域のうち、アレッポ県、ラッカ県などで「イスラーム国」の構成員の造反、反乱、それに伴う処刑についての報道が続いている。

3月2日付『ハヤート』:「イスラーム国」がラッカでオランダ国籍の構成員8名を「集団脱走」の罪で処刑した。同地では、オランダ国籍の者75名ほどが党派を作り、イラク出身の幹部と対立していた。この対立が戦闘に発展し、オランダ国籍の構成員全員が捕らえられ、うち8名が処刑された。

3月7日付『ワタン』紙(シリアの民間日刊紙。シリア政府寄り):5日、6日に「イスラーム国」の地元の戦闘員(=アンサール)と外国人戦闘員(=ムハージルーン)とがラッカで交戦し、双方で多数の死者が出た。戦闘は複数の街区に及び、住民がアンサールの側に加勢した。

3月7日「マヤーディーン」TV(レバノンの衛星放送局。「アラブの春」についての既存の報道全般に批判的):アレッポ県北部で、「イスラーム国」の戦闘員数十名が離反を宣言した。離反の原因は、戦闘員に給与が支払われなかったことと、ロシア軍・シリア軍の攻勢により被害がかさんでいることと思われる。

評価

『ハヤート』紙を除くと、情報源の報道姿勢がシリア政府寄りの報道機関となっているため、「イスラーム国」での造反や反乱の動きがどの程度広がっているかについては判断がつかないところがあるが、戦闘員への給与の支払いが滞っている問題や、地元の構成員や支持者と外部から来た戦闘員や幹部との軋轢については、かねてから多くの報道機関が指摘している。こうした情報は、「ムスリムならば差別などなく、誰もが充実した生活を送ることができる」という「イスラーム国」の広報に対抗する意味合いを持っていよう。一方、シリアの反体制派の広報機関である「シリア人権監視団」によると、「イスラーム国」は2014年以降イラクとシリアで424名の構成員を「スパイ」、「逃亡」、「離反」などの罪状で処刑している。「イスラーム国」などに合流した外国人が3万人を越えるとの推計に従えば、処刑された構成員は人数・割合共に「イスラーム国」にとって深刻な打撃とはなっていないだろう。

「イスラーム国」については、2月18日付のレバノン紙『サフィール』(親左翼、民族主義)が財政難を理由にクルアーンに明記された刑罰の執行をする代わりにドルで罰金を納付させていると報じている。外部からの流入を中心に資源の供給を絶つことこそが、今後も「イスラーム国」対策の鍵となろう。

(イスラーム過激派モニター班)

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