中東かわら版

№175 イラン:第10期国会議員選挙・第5期専門家会議議員選挙の実施

 2月26日、第10期国会議員選挙および第5期専門家会議議員選挙が同日選で実施された。国会議員選挙では、ハータミー政権時代の第一副大統領で改革派の筆頭であるモハンマドレザー・アーレフがテヘラン選挙区で約160万票を獲得しトップ当選を果たしたほか、同選挙区では全30議席を保守穏健派・改革派が獲得した。保守強硬派の筆頭であり、元国会議長のゴラームアリー・ハッダード=アーデルは落選した。

 専門家会議議員選挙では、保守穏健派のラフサンジャーニー元大統領がテヘラン選挙区で約230万票を獲得しトップ当選を果たしたほか、同じく保守穏健派のロウハーニー大統領は同選挙区にて約224万票を獲得し3位当選を果たした。他方、保守強硬派は、現専門家会議議長のモハンマド・ヤズディー、アフマディーネジャード前大統領の精神的支援者として知られるモハンマドタギー・メスバーフ=ヤズディーが落選し、大きく勢力を減退させることになった。

 

●選挙全体

有権者数:約5500万人

投票者数:約3300万人

投票率:62%(2月29日のラフマーニー=ファズリー内相による発表)

 

●国会議員選挙

任期:4年

定数:290議席(うち5議席は少数派への割り当て)

立候補者数:約5200人 ※約1万2000人が立候補したものの半数以上が監督者評議会の審査により落選

 

●専門家会議議員選挙

任期:8年

定数:88議席

立候補者数:166人 ※801人が立候補したものの大半が監督者評議会の審査により落選

  

評価

 国会議員選挙、専門家会議議員選挙の同日選となった今回の選挙では、核合意による制裁解除を達成したロウハーニー政権の実績を評価する声が高く、政治的に連合している保守穏健派、改革派が躍進することになった。イランの選挙制度では、有権者は各選挙区の定数分の候補者を選ぶことができるため、各政治勢力は連合して統一リストを作成することが多い。候補者は複数のリストに名を連ねることができ、さらに競合関係にある政治勢力同士でもリストを作成することがあるため、議席の配分においてどの勢力が何議席を獲得したかが判別しづらくなっているが、全体的な傾向として保守穏健派・改革派が勢力を伸ばしたことが各種報道で伝えられている。

 国会において保守強硬派の勢力が弱まったことは、大臣の喚問や罷免要求の回数が少なくなることを意味しており、ロウハーニー政権にとっては今後の政治運営が容易になるだろう。保守強硬派は制裁解除後の欧米との通商関係の拡大に警鐘を鳴らしていたが、こうした妨害も今後は停滞していく見通しだ。国内政治の面では大学改革といった分野で、ロウハーニー政権の政策が進められていくことになるだろう。

 専門家会議は、日常的な政策には携わらないものの、最高指導者を選出するというイラン政治上、極めて重要な権能を有する。特に、ハーメネイー最高指導者が76歳という高齢であり、2014年9月には前立腺の手術で入院したことが報じられるなど健康状態を不安視する声もあるため、来期の専門家会議は次期最高指導者の選出に携わる可能性が高い。2015年12月、ラフサンジャーニーは「専門家会議内に(最高指導者の)候補者を検討するグループが設置された」と述べており、既に人選が進められていることが明らかにされている。

 今回の選挙の結果、専門家会議内ではラフサンジャーニーの政治的影響力が高まることが予想される。2015年3月に行われた専門家会議議長選では(詳細は「イラン:専門会会議の議長にモハンマド・ヤズディー師が選出」『中東かわら版』No.265(2015年3月12日)、モハンマド・ヤズディーがラフサンジャーニーを破って議長に就いたことが大きく報じられたが、今回の選挙でモハンマド・ヤズディーは落選することになった。また、保守派の中でも最強硬派として知られており、2007年7月の専門家会議議長選でラフサンジャーニーと戦ったメスバーフ=ヤズディーも(このときの議長選ではラフサンジャーニーが勝利した)、今回の選挙で落選した。保守強硬派の有力者であり1988年から監督者評議会書記を務めるアフマド・ジャンナティーは当選を果たしたものの、定数16のテヘラン選挙区で132万票獲得の16位通過と薄氷の勝利であった。主要なライバルに大きな差をつけることに成功したラフサンジャーニーは、次期最高指導者の選出でも大きな発言力を持つことになるだろう。

(研究員 村上 拓哉)

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