中東かわら版

№158 イラン:核合意の「履行日」の到来

 1月16日、IAEAは、昨年7月に合意されたイラン核問題に関する「包括的共同行動計画(JCPOA)」(以下、核合意)において要求されていた措置をイランが履行したことを確認したことを発表した。これを受け、同日、イランのザリーフ外相とEUのモゲリーニ上級代表はウィーンで共同記者会見を開き、核合意の「履行日(Implementation Day)」を迎えることを発表した。これに伴い、過去の国連安保理決議による対イラン制裁(武器禁輸、弾道ミサイル関連活動を除く)が解除されたほか、米国・EUによる核関連の独自制裁がそれぞれ適用停止・解除となった。

 

評価

 イラン核合意の履行にあたっては、7月の合意以降、順調に進んできたといえる。12月15日にIAEAでイランの過去の核開発疑惑について取りまとめた最終報告書が採択されたことで、障害となりうる主な問題は解決され、1月中にも「履行日」を迎えることが期待されていた(詳細については以下を参照。「3. イラン:IAEA がイランの核開発疑惑の調査を終了」『中東トピックス』No.T15-09(2016年1月1日)※会員限定)

 各種制裁解除については、国連、米国、EUともに即日適用となり、それぞれガイドライン等が発表されており(詳細は下記の資料を参照)、日本政府も週内に制裁解除に踏み切る構えを見せている。

 制裁解除の影響のなかでも重要なのは、外貨獲得の貴重な手段である原油輸出の再開である。制裁前のイランでは、約250万バレル/日の原油輸出を行っていたが、制裁が強化された2012年以降は約100万バレル/日まで減少していた。今回の制裁解除にともない、イランは制裁下において備蓄していた分を放出するとともに、原油生産を再開させ、制裁前と同程度の水準まで輸出量も増加させていくだろう。もっとも、イラン産原油が市場に復活することは、既に1バレル30ドルを切る勢いで下落している原油価格を更に下げかねない。他の産油国でも原油価格の低迷に悩まされており、イランの財政状況も厳しい環境にあることは変わりない。

 他方、イランは石油依存型経済の脱却も目指している。金融制裁が解除されることで、凍結されていた海外資金が流入するほか、外資の参入も容易となる。制裁下において開発が停滞していたイランでは、大型インフラプロジェクトを含めて様々な案件が今後進められていくことになるだろう。これらの開発の恩恵が国民に還元されていくのには時差が生じるが、総じていえばイラン経済にプラスの影響を与えることが見込まれている。こうした状況は、2月末に国会議員選挙を控えているロウハーニー政権にとって、選挙戦を有利に展開するための材料になるだろう。

 

<イラン制裁の解除に関する資料>

国連安保理決議第2231号

http://www.un.org/en/sc/2231/

 

米国の対イラン制裁解除に関するガイドライン等

https://www.treasury.gov/resource-center/sanctions/OFAC-Enforcement/Pages/jcpoa_implementation.aspx

 

EUの対イラン制裁解除に関するガイドライン等

http://www.consilium.europa.eu/en/press/press-releases/2016/01/16-iran-council-lifts-all-nuclear-related-eu-sanctions/

(研究員 村上 拓哉)

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