中東かわら版

№157 イスラーム過激派:「イスラーム的マグリブのアル=カーイダ」の動き

 2016年1月15日、ブルキナ・ファソの首都ワガドゥグで高級ホテルが襲撃され、欧米諸国の国籍の者をはじめとする20名以上が殺害された。この事件について、「イスラーム的マグリブのアル=カーイダ」が犯行声明を発表した。声明は、襲撃を「イスラームとムスリムの地からスパイの巣窟を一掃するための戦い」の一環と位置づけた上で、「中央アフリカ、マリなどのムスリムのための復讐」と主張した。また、ビン・ラーディンやザワーヒリーの発言を引用し、「ムスリムが安全を享受しない限り、お前たち(=欧米諸国)も安全を享受できない」と主張した。さらに、声明には、イラクとシャームの民、パレスチナでの蜂起への激励・連帯表明が含まれていた。

 

画像:犯行声明中で紹介された襲撃犯たち。

 「イスラーム的マグリブのアル=カーイダ」は、2015年12月初頭に発生したマリの首都バマコでのホテル襲撃事件についても犯行声明を発表している。その際、2012年中ごろに「イスラーム的マグリブのアル=カーイダ」から分裂した「ムラービトゥーン」(当時は「覆面部隊」、「血判部隊」などを名乗る。2013年初頭のアイン・アミナースのガス施設襲撃事件を実行)と合流した旨発表、マグリブ、サハラ方面で戦力の増強に努め、活動を活発化させている。

 

評価

 「イスラーム的マグリブのアル=カーイダ」が活動を活発化させ、欧米権益に対する攻撃を強化していることは、「イスラーム国」の活動と無縁ではない。「イスラーム国」はアル=カーイダへの非難を強めると共に、「イスラーム国」に同調しないアル=カーイダの諸派の構成員に対し離反して「イスラーム国」につくよう呼びかけるプロパガンダを行っている。これに対し、アル=カーイダの側も2015年秋以降ザワーヒリーが演説シリーズを発表するなどして対抗キャンペーンに乗り出している。アル=カーイダ側の主張で注目すべき点は、「「イスラーム国」によるカリフ制は認めない」、「ムジャーヒドゥーンは十字軍・シオニストとの戦いで団結すべきで、内紛に拘泥すべきでない」、「(欧米人などの)捕虜を十字軍側に捕らえられたムスリム囚人の解放闘争に利用すること」である。

 「イスラーム的マグリブのアル=カーイダ」と「ムラービトゥーン」が再合流したり、サハラ諸国で欧米権益への襲撃を引き起こしたりしていることには、上記のアル=カーイダによるプロパガンダキャンペーンに沿って「ムジャーヒドゥーンの団結」や「あるべきジハードの姿」を誇示する意味合いがあろう。その一方で、こうした行動は「イスラーム国」に社会的関心が集中し、ヒト・モノ・カネなどの資源の調達もままならないアル=カーイダ諸派の苦境をも反映している。現在アル=カーイダは「イスラーム国」との間の威信や資源の獲得競争において明らかに劣勢であり、各国の首都で欧米権益の所在地となっているホテルを襲撃する戦術は、このような劣勢を少しでも挽回するために報道機関の関心を惹きやすい攻撃対象を選択した結果と考えられる。サハラ諸国、場合によってはマグリブ諸国においては、当面報道機関からの注目度を意識した作戦が続くことが予想される。なお、襲撃事件が発生した各国においては、ホテルに立てこもった襲撃犯に対し、襲撃犯側の広報活動に資するような情報発信の猶予を与えずに迅速に武力鎮圧している。邦人権益と人命の保護に際しては、襲撃側である「イスラーム的マグリブのアル=カーイダ」の行動の傾向と並び、当事国側の反応の傾向も考慮する必要があろう。

(イスラーム過激派モニター班)

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