中東かわら版

№141 サウジアラビア:イスラーム諸国による対テロ軍事同盟の発表

 12月14日、サウジアラビアは、34カ国のイスラーム諸国からなる対テロ軍事同盟の形成を発表した。共同声明では、テロリズムはいかなる理由でも許容されない行為であり、イスラーム協力機構(OIC)憲章、国連憲章、そしてその他国際条約において掲げられているテロリズムの撲滅を達成するために、軍事同盟を結成することが謳われた。同声明では、同盟はサウジアラビアが主導するものであり、対テロ軍事作戦の調整やこれらの努力を支援するためのプログラムなどを発展させるため、合同作戦室がリヤードに設置されるとした。また、同盟に参加する34カ国が列記され、インドネシアを含む10カ国以上のイスラーム諸国が同盟への支持を表明したと言及している。

 同声明の発表後、ムハンマド・サルマーン副皇太子はリヤードのキング・サルマーン空軍基地で記者会見を行った。同副皇太子は、テロの被害を受けている国として、シリア、イラク、シナイ半島、イエメン、リビア、マリ、ナイジェリア、パキスタン、アフガニスタンを挙げ、これらの国々においてテロとの戦いを強化する必要があると述べた。特に、シリア、イラクで行われている(欧米主導の)軍事作戦と連携すること、両国の正統政府、そして国際社会と協調することなしでは、(彼らの)作戦を実行することはできないと述べ、国際社会の主要国や国際機関との協調を訴えた。また、支持を表明した10カ国以上の国々については、同盟に参加する前に取るべき手続きがあったことを指摘し、他の諸国は後から同盟に参加することになるとの見解を表明した。

 

図:対テロ軍事同盟への参加を表明したイスラーム諸国

 

 

※サウジアラビア、ヨルダン、UAE、パキスタン、バハレーン、バングラデシュ、ベニン、トルコ、チャド、トーゴ、チュニジア、ジブチ、セネガル、スーダン、シエラレオネ、ソマリア、ガボン、ギニア、パレスチナ、コモロ連合、カタル、コードジボワール、クウェイト、レバノン、リビア、モルディブ、マリ、マレーシア、エジプト、モロッコ、モーリタニア、ニジェール、ナイジェリア、イエメン

 

出所:筆者作成

 

評価

 上図にあるように、今回の共同声明の発表にあたり、サウジアラビアは広範な同盟を形成することに成功した。また、今回参加を表明した34カ国に加えて10カ国以上が同盟への支持を表明したのであれば、OIC加盟国57カ国の大半が同盟を支持していることになる。同盟形成の主眼がどこにあるのか今回の声明および記者会見からは明らかではないが、昨今、主に欧米諸国からテロ組織への資金流入の面でのテロ対策の強化やイエメン紛争の早期解決を求められているサウジアラビアにとって、自身の外交的な立場を強化するものであることは疑いない。特に、共同声明においてサウジアラビアが「主導する」との文言が入ったことは、サウジの指導的立場を他の諸国が受け入れたことを意味しており、外交的には大きな成果であろう。声明発表の翌日である15日からはイエメンで一週間の停戦が始まっており、サウジに対するイメージを改善し各種の非難をかわすにも良いタイミングであった。

 他方、同盟に不参加の国にも注目するべきであろう。支持を表明したとされる10カ国以上の国のうち去就が明らかになっているのはインドネシアのみである。同盟を支持しているか否かは不明であるが、少なくとも同盟不参加の国としては、シリア、イラク、オマーン、アルジェリアのアラブ連盟加盟国4カ国のほか、サウジアラビアと地域覇権を争うイラン、そしてアフガニスタンや、カザフスタンなどの中央アジア諸国などがある。すなわち、ムハンマド・サルマーンがテロとの戦いを強化する地域として挙げたシリア、イラク、そしてアフガニスタンにおいては、当該地域において主権を行使し得る政府の賛成が得られていないことになり、問題の解決にあたり最も調整が必要となるイランとも合意に至っていないことになる。

 このことから分かるように、今回発表された対テロ軍事同盟が、どれだけの実態を伴うものかは大いに疑問である。共同声明およびその後のムハンマド・サルマーンによる記者会見での発言を見る限りでは、リヤードに合同作戦室を設置するということ以外には何も具体的なことが明らかになっていない。これまでの対テロ協力とは何が本質的に異なるのかが説明されない限り、「同盟」という表現は看板以上の意味を持たないだろう。

 ところで、今回の対テロ軍事同盟の発表は、サウジアラビアの国内政治の文脈では、若干興味深い点があった。副皇太子であるムハンマド・サルマーンが記者会見に出てきたのは、確認できる限りでは初めてのことである。5分強の短い記者会見ではあったが、報道陣の前で応答をしている映像および画像は、サウジ国内外で大きく報じられている。今年1月の国防相就任、そして4月の副皇太子就任と、王位継承への道を固めているムハンマド・サルマーンにとって、今回、軍事外交面での成果を披露する姿が報じられたことは、国内外における彼のプレゼンス向上につながろう。現在、外相は非王族のジュバイルであり、皇太子のムハンマド・ナーイフが兼任しているのは国内治安問題を担当する内相であることから、国防相の所掌である軍事政策に加えて対外政策でもムハンマド・サルマーンが取り仕切る例が散見される。これが、イスラーム諸国の次の盟主というイメージを生むことにつながるかどうかは今後の政策次第であるが、サウジの広報外交戦略の観点からは、ムハンマド・サルマーンに光が当たるように意図されていることは指摘できよう。

(村上研究員)

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