中東かわら版

№139 エジプト:議会選挙の結果(暫定)

 10月中旬から始まった議会選挙がほぼ終了し、当選者の概要が判明した。投票は全国を2つに分けて2段階で、拘束名簿式・全国4区の名簿区と、定数1~4の個人代表区の並立制で行われた。最高選挙委員会(選管)がこれまでに発表した情報によると、以下のようになる。

[選挙制度]

・名簿区: 拘束名簿式。過半数票を獲得した名簿が選挙区の定数議席をすべて獲得する。

・個人代表区: 定数1~4。過半数票を獲得した候補者が勝利する。

 (両区とも決選投票あり)

[投票日]

・第1回 10/18-19(在外10/17-18)、決選投票10/27-28(在外10/26-27)

・第2回 11/22-23(在外11/21-22)、決選投票12/1-2(在外11/30-12/1)

・再選挙* 12/5-16(手続き上のミスにより、一部の個人代表区で行われる)

[選挙結果(暫定)]

・投票率(第1・2回) 28.3%

※以下は、最高選挙委員会サイトから作成。「残り」は未決議席。

 

 

評価

 選挙結果は事前の予想どおり、唯一の宗教勢力であるヌール党の惨敗(11議席)、シーシー政権を支持する非イスラーム主義勢力の圧勝であった。また、ムバーラク時代の政権幹部やムバーラク政権と深い関係を持っていた実業家、治安機関出身者の当選が目立った。

 まず4つの名簿区ではいずれも、非イスラーム主義連合「エジプトへの愛」が過半数票を獲得し、全120議席を確保した。同連合は元諜報機関幹部のサーミフ・サイフ・ヤザルが中心となって結成され、主要参加政党には、中東屈指の大実業家ナギーブ・サウィーリスが創設者の「自由エジプト人党」や、実業家サイイド・バダウィー率いる古参政党「ワフド党」などがおり、さらにはムバーラク時代の与党(国民民主党)幹部・元議員・元閣僚・元高級官僚(治安機関含む)や、ムバーラク政権と深い関係を築いた実業家も含まれる。個人代表区でも、「エジプトへの愛」連合の参加政党が善戦した。その他、議席を獲得した政党も、非イスラーム主義かつ現政権を支持する政党であった。当選者を所属別に見た円グラフ(下)では、無所属が過半数を超えていることがわかるが、無所属にも政党から後援を受けた者、大実業家、ムバーラク時代の政権幹部、治安関係者が多数存在する。

 非イスラーム主義勢力やムバーラク時代の有力者が当選した理由には、第一に世論に広がる反ムスリム同胞団感情がある。ムルシー大統領就任後から次第に膨らみ、クーデター後に確固たるものとなったムスリム同胞団への不信感、国家転覆を狙う「非国民」としての見方は、根強い世論であるように思われる。また、今回の選挙で採用された選挙制度も関係している。名簿区は比例代表制ではなく勝者総取り形式であり、動員力=資金源のある政党が勝利できる仕組みである。個人代表区は、ムバーラク時代に与党候補者が当選するために利用されてきた制度で、名簿区よりも多くの議席が割り振られた。このような選挙制度では動員力を有するムバーラク時代の有力者が有利である。シーシー政権の方針を批判する小政党は、1桁台の議席獲得に留まった。

 他方、投票率が28.3%と低いことにも注目すべきである。投票率が低い原因には、立候補者の情報不足から有権者が誰に投票すればよいのかわからないというものや、政権支持派の勝利が事前に分かっていたこと、また政治への期待が低下していることが関係している。「革命」から5年が経とうとする現在も、国民の生活水準は政変の余波を受けたまま改善せず、国民の政治参加の動機が弱くなってきたと考えられる。

 2016年の年明けに始動する新議会は、シーシー政権と共同歩調を取る政治勢力の独占状態となる。特に、大実業家やムバーラク時代の有力者が大きな役割を果たすことになるだろう。彼らはクーデタ後に復権を果たした政治勢力であるため、シーシー政権の方針に反対することは考えにくく、新議会は行政府に従属するような関係となる恐れがある。他方、2013年7月から存在しなかった議会がようやく復活し、政界には大きな政策対立もないため、今後は安定した政治運営が行われると思われる。こうした状況は政変前のムバーラク時代を想起させるが、安定した(非民主的)政治運営が経済回復に寄与していくのかどうか注目される。

(研究員 金谷 美紗)

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