中東かわら版

№138 クウェイト:アフマド・ファハド元副首相に有罪判決

 12月10日、刑事裁判所は、サバーフ首長の甥にあたるアフマド・ファハド元副首相に対し、懲役6カ月および罰金1000ディナールの有罪判決を下した。同元副首相は、首長府の許可なしにテレビ番組で首長について発言をしたこと、同番組が国家の秩序を乱すような内容を含んでいたこと、検察を侮辱する発言をしたことで、罪に問われていた。同元副首相は、アジアオリンピック評議会(OCA)の会長職のほか、国際オリンピック委員会(IOC)の委員、国際サッカー連盟(FIFA)の理事も務めており、スポーツ界に大きな影響力を持っている。

 

 アフマド・ファハド元副首相は、OCA経由で声明を発出し、これは個人攻撃であり、クウェイトの憲法では意見を自由に述べることは権利である、民主主義の価値、表現の自由の権利、スポーツの(政治からの)独立性を守るために戦うと述べ、控訴する方針であることを明らかにした。クウェイトのオリンピック委員会およびサッカー委員会は、政府による干渉を理由として、2015年10月にそれぞれIOCおよびFIFAから資格を停止されているが、同声明では「特定の人物たち」がこれらの政治介入を行っているとも言及している。

 

評価

 アフマド・ファハド元副首相は1963年生まれの52歳で、現サバーフ首長の甥にあたり、王族内でも有力な政治家の一人として、2001年以降、情報相、石油相などを歴任してきた。しかし、2011年6月に、経済担当副首相のポストを辞任して以来、政府の公職には就いていない。これは、従兄弟にあたるナースル首相(当時)との確執が理由とされており、一部では王位継承を巡る権力闘争であったとも見られている。

 その後、2013年末に、アフマド・ファハド元副首相は、ナースル元首相およびホラーフィー元国会議長が体制転換を企てた疑惑について証拠を有していると発言し、国内で大きな論争となった。同問題は、2015年3月に、検察が同証拠は信用できるものではないとの判断を下したことで、一応の終息を見ることになった(同問題の詳細については「クウェイト:体制転換疑惑問題の決着」『中東かわら版』No.280(2015年3月31日)を参照)

 今回の判決について、どのような政治的思惑が絡んでいるのかは不明であるが、このような有力王族が裁判にかけられて有罪判決が下されることは極めて稀なことである。罪状に関しては、本質的には過去の体制転換疑惑を巡る問題の延長線上にあり、元副首相の声明にも「個人攻撃」という表現があることから、彼の政治基盤となっているスポーツ関係の権益を奪おうとする動きとして見ることもできよう。もっとも、これは同元副首相が、意図的に国内の政治問題とスポーツの問題を結びつけて、国際的な関心を惹きつけることで、自身の立場を強化しようとするパフォーマンスとして理解することも可能である。これによって、クウェイト内政が混乱に陥る可能性は希薄であるが、余波として政府の信頼性に悪影響を及ぼすことになるだろう。

(研究員 村上 拓哉)

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