中東かわら版

№137 シリア:「穏健な」反体制派間の交戦

 2015年12月初頭、アレッポ県の北部で反体制派の武装勢力同士が交戦した。これらの武装勢力の多くは、西側諸国、アラビア半島諸国の政府・報道機関などが「穏健な」反体制派と位置づけ、「イスラーム国」とは区別して様々な援助を与えてきた団体だった。6日付『ナハール』紙(キリスト教徒資本のレバノン紙)によると、交戦の概要は以下の通り。

交戦場所:アレッポ県北部のトルコとの国境に近いアアザーズ市と、同県北西端のアフリーン市の間の区域。

シリア北部の地図:赤線内が今般の戦闘が発生した区域。

交戦勢力:
  1. 「人民防衛隊(YPG。クルドの武装勢力)」、「革命家軍」。なお、両派共に最近アメリカ政府の支援を受けて結成された「民主シリア軍」という連合体に加わっている。
  2. .シャーミーヤ戦線(形式的には「自由シリア軍」の一派)。同派はトルコから支援を受けている。アメリカの支援計画の対象にもなっている。また、交戦の際には、アル=カーイダと近しい「シャーム自由人運動(アフラール・シャーム)」と、シリアにおけるアル=カーイダである「ヌスラ戦線」の加勢を受けた。
戦闘の推移

 両交戦勢力共に、戦闘の発端は相手方が進撃・攻撃したことと主張しており、経緯は不明である。そうした中、YPGは自派は当初戦闘には関与しておらず、後にアフリーンから兵力を派遣して加勢したと主張した。一方、シャーミーヤ戦線側は、ロシアによる爆撃が反体制派諸派に集中していることがクルド勢力の進撃を促したと主張した。双方は一応停戦したものの、散発的な衝突が続いている。なお、双方が交戦した期間の前後、「イスラーム国」がトルコとアレッポとの往来の要地であるアアザーズ市方面に進撃し、間近まで迫っている。

評価

 これまでは、「ロシア軍は「イスラーム国」ではなく専ら「反体制派」を攻撃している」、「シリア政府軍は「イスラーム国」とは戦わず、「反体制派」を弾圧している」との批判が多く聞かれたが、今般の交戦は、「反体制派」の、しかもアメリカやトルコが直接支援する団体同士が交戦した事案である。また、アメリカについては今般交戦した双方を「穏健な」反体制派として支援しており、交戦ではアメリカによる反体制派支援・育成政策が直面する困難が如実に示されている。一方、トルコは、シリアにおけるアル=カーイダである「ヌスラ戦線」と提携する団体すら支援していることになるが、これはYPGがアメリカの支援を受けて占拠地域を拡大し、シリアとトルコとの国境地帯が全てクルド勢力の手に落ちるよりは「まし」との判断に基づくと思われる。アメリカとトルコは、アレッポ県北部に「安全地域」と称する武装勢力の占拠地域を確立することで合意しているとされているが、今般の交戦は、双方が援助する団体同士が交戦し、各々の国が行っている武装勢力への支援を打ち消しあうことにつながりかねない。

 シリア紛争については、紛争の発生と拡大の原因、及び紛争の解決の方策についての見解が当事者間で著しく異なる。従来は、シリア政府の支援・強化を通じた事態の収拾を目指すシリア政府、ロシア、イランなどの見解と、シリア政府の存在こそが事態悪化の原因とみなすアメリカ、トルコ、サウジなどの見解が対立し、互いに相手方が講じる解決に向けた措置を妨害しあってきた。それが、今般の武装勢力同士の交戦では、アサド大統領の退任や「安全地域」の設置で立場が近いアメリカとトルコが各々相手の講じる措置を妨害しあうかのような事態になってしまった。現在、シリアの反体制派を取りまとめるための会議が開催されているが、反体制派の糾合や、政府と交渉できる反体制派側の代表選出などを実現するには、反体制派を支援する諸国間の関係調整や立場の整理が必要となろう。アメリカが後押しする武装勢力もトルコが支援する武装勢力も、一般には「穏健な」反体制派と認識されているが、今般の交戦事件は、「穏健な」反体制派を支援・育成することが、シリア紛争の収束や「イスラーム国」対策に役立つのか疑問を抱かせる事件といえる。

(髙岡上席研究員)

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