№125 シリア:フランスがラッカに「最大規模の」空爆を実施
2015年11月15日、フランス軍はラッカの「イスラーム国」の拠点に対する「最大規模の」爆撃を実施したと発表した。発表によると、軍用機12機がラッカに20発の爆弾を投下し、「イスラーム国」の指揮所、募兵施設、弾薬集積所、訓練基地に損害を与えた。フランスのオランド大統領は、フランス時間の13日に発生したパリでの襲撃事件を「戦争行為」と認識し容赦しないと表明していた。
評価
今般の攻撃は、フランスにとっては確かに「最大規模」の攻撃であろう。同種の報復的な空爆は2月はじめに「イスラーム国」によってパイロットを焼殺されたヨルダンが、パイロットが焼殺された直後に行っている。しかし、ヨルダンによる空爆は一時的なものに終わり、連合軍がイラクとシリアで「イスラーム国」に対して行っている空爆は、1日あたり20~30件にとどまっている。フランスによる「最大規模」の攻撃といえども、連合軍の攻撃回数の平均値を大きく上回るものではない。現状では、連合軍による空爆が「イスラーム国」の活動や勢力に決定的な打撃を与えているとは言い難く、仮にフランスが15日に実施した規模の爆撃を長期にわたり実施し続けたとしても、この趨勢を変えることは難しいだろう。
一方、イラクやシリアで「イスラーム国」に合流したと思われる外国人は、2014年前半の時点では1万5000人と推定されていたものが、最近では3万人へと増加した。これは、連合国が空爆を繰り返す一方で、「イスラーム国」へと送り出されるヒト・モノ・カネなどの資源の流れの遮断に成功していないことを示している。フランスが「イスラーム国」と「戦争」するのならば、イラクやシリアで同組織を軍事的に攻撃することと並び、フランス国内での「イスラーム国」による人員勧誘や資金集め、広報活動の実態を解明し、これらを取り締まることが必須となろう。同様のことはパイロットが殺害された際のヨルダンの反応についてもいえる。
今般のパリで「組織的かつ周到な」襲撃が行われ、「イスラーム国」が事件の「犯行声明」を出したという現実は、フランス国内に「イスラーム国」の活動基盤が存在することを示している。この事件は、フランスを含む「イスラーム国」の資源調達地となっていた諸国に従来の治安対策の根本的な見直しを迫るものとなろう。そして、各国の治安政策を大きく変更し、自国内で「イスラーム国」への取締りを強化すれば、それらの国で「イスラーム国」やその支持者が新たな攻撃を仕掛ける可能性は上昇し得るが、対策に猶予は許されない状況にある。
(イスラーム過激派モニター班)
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