中東かわら版

№124 イスラーム過激派:「イスラーム国」がパリでの襲撃事件について声明を発表

 2015年11月14日、パリの国立競技場など7カ所が襲撃され、120人以上が死亡した。この事件について、同日夕刻に「イスラーム国 フランス」名義で犯行声明とされる文書が出回った。

画像:「イスラーム国 フランス」名義の声明

 声明は、襲撃は目標を精緻に選択した上でのものであり、フランスとそれに倣う者には今後も「死のリスト」の筆頭に置かれると脅迫した。

評価

 この声明は、通常「イスラーム国」が広報活動に使用する体裁をとり、声明類を発表する掲示板サイトで公表されており、「声明が本物である」点については間違いない。その声明の中でパリで襲撃事件を起こしたと主張し、さらにフランスなどを脅迫しているという事実を軽視してはならない。その一方で、「声明の内容が事実か」という点については一考の余地がある。なぜなら、声明の内容には襲撃事件について襲撃犯の氏名や彼らの画像など、実行犯のみが知りうる内容が一切含まれておらず、襲撃の詳細は声明が発表されるより前に報道されたものを繰り返しているに過ぎないからだ。この点は、少なくともこの声明を製作した者は事件について発表できる情報を持っていないことを示唆している。もっとも、「イスラーム国」が何らかの事件について「犯行声明」を発表したとしても、同派の関与の程度は企画・準備・実行・広報などの各段階に直接主体的に関わった場合から、組織的には無関係の主体が実行した事件を事後的に承認・賞賛して影響力を誇示を狙う場合など様々な程度が考えられるため、声明の形式や内容を基に“「イスラーム国」がやったのか否か”という二択の問は成立しない点には注意すべきである。

 今般の襲撃事件や「イスラーム国」の声明でより重視すべき点は、「イスラーム国」が自らフランスを攻撃したと主張した点である。従来、「イスラーム国」はフランスを含むEU諸国をヒト・モノ・カネなどの資源を調達する兵站拠点、或いはインターネットなどを通じて広報を行う舞台とみなしていた。そのような兵站拠点で攻撃を仕掛けることは、地元の官憲の取り締まりを受け、資源の調達そのものを不可能にすることにつながりかねない不合理な行動と思われる。一方、「イスラーム国」が兵站拠点としている諸国の間には、自国内で「イスラーム国」やその支持者と衝突することによって生じる負担を恐れ、彼らに対する取締りに及び腰になっている事例も見受けられた。その結果、「イスラーム国」がEU諸国やアラビア半島、マグリブ諸国で自在に資源を調達し、それをイラク、シリアに投入するシステムが確立していた。

 これまで兵站拠点として利用していた地域で今般のような作戦を行うと、このようなシステム自体を危険にさらし、資源調達ができなくなる恐れが高くなる。そうなると、「イスラーム国」にとってのフランスやEU諸国の位置づけが兵站拠点から攻撃対象へと劇的に変化した可能性や、同派の広報活動の少なくとも一部は組織を運営する上での利害関係や文脈を無視して無軌道に行われている可能性を想定しなくてはならない。

(イスラーム過激派モニター班)

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