中東かわら版

№117 エジプト:シナイ半島で航空機が墜落 #2

 2015年11月4日、シナイ半島でロシア行きの旅客機が墜落した件について、アメリカやイギリス筋から爆弾などを用いた爆破が墜落原因の可能性があるとの説が出る中、「イスラーム国 シナイ州」名義の音声(3分48秒)が出回った。

画像:「イスラーム国 シナイ州」が音声ファイルのリンクと共に発表したファイルのタイトルを記した画像。

 音声の要旨は以下の通り。なお、音声を読み上げたのは誰かは不明。

  • ロシアの航空機が撃墜し、シナイ州のカリフの兵士たちがそれを撃墜したと宣言した。アッラーのしたことを疑うのか?
  • 我々には航空機撃墜の方法について説明する義務はない。ブラックボックスを解析し、我々が撃墜したのではないことや、どのように航空機が墜落したのかを確定してみよ。
  • 我々は好きなときに我々が思うように航空機撃墜の方法について説明する。しかし、事件の日がムハッラム月17日だということに気付かないのか?この日は我々がカリフにバイア(忠誠の表明)してからちょうど1年後だ。

評価

 今般出回った音声は、ロシア機の墜落をあくまで自らの作戦の結果だと主張しているが、墜落原因(=撃墜作戦の詳細や犯人のみが知りうる事実の暴露)についての説明を回避しており、依然として「シナイ州が航空機を撃墜したと主張している」こと以外事実としての確証はない。また、事件が発生したムハッラム月17日が、「シナイ州」と名称を改める前の「エルサレムの支援者団」がカリフを称するバグダーディーに忠誠の表明をした日付と重なることも確かではある。しかし、墜落原因が究明されないうちに犯人のみが知りうる事実を暴露したり、事件直後に発表した声明で忠誠の表明から一周年であることに言及したりしたほうが、広報効果は圧倒的に高いはずである。「好きなときに説明する」との一見挑発的な主張は、「イスラーム国 シナイ州」の側に現時点で発表できる事実や証拠がないとの憶測すら招きかねない、拙劣な広報といえよう。

 航空機の墜落の原因については、エジプトやロシアの当局のみならず、機体の生産者など西欧諸国からも人員が参加した調査・解析が行われており、エジプト、ロシアの都合によって事実が隠蔽される懸念は後退したと言える。墜落原因については、調査結果を待って判断するのが最も確実であろう。そうした中、確たる裏付けもなく自らが撃墜したと主張するだけに終始した「イスラーム国 シナイ州」の広報は、「イスラーム国」の発表内容を無条件で事実として受容する者や、墜落は「イスラーム国」の作戦の結果であってほしいと期待する者の心にしか響かないだろう。

(イスラーム過激派モニター班)

◎本「かわら版」の許可なき複製、転送はご遠慮ください。引用の際は出典を明示して下さい。
◎各種情報、お問い合わせは中東調査会 HP をご覧下さい。URL:https://www.meij.or.jp/

| |


PAGE
TOP