中東かわら版

№116 エジプト:議会選挙第1回投票の結果(非公式)

 10月18・19日、議会選挙の第1回投票が行われた。今回の投票対象地域は、ギザ県、アレキサンドリア県を含むデルタ地方の西部県、ファイユーム県以南の上エジプト諸県の合計14県で、286議席が争われた。残り13県は、11月21・22日に投票が行われる。

【図:第1回投票の対象県】
  • 個人代表区:226議席、過半数獲得勝利方式
  • 名簿区:60議席、拘束名簿式、過半数獲得勝利方式。西デルタ区(15議席)、上エジプト区(45議席)

 第1回投票の公式な最終結果は発表されていないが、報道ベースでは、シーシー政権を支持するリベラル派(=非イスラーム主義者、世俗主義者)の圧勝、唯一の宗教勢力であるヌール党の惨敗という結果になったようだ。個人代表区では、第1回投票で4人しか過半数票を獲得できなかったため、残り222議席が決選投票で再度争われた(10月27・28日)。選管発表によると、投票率は18・19日が26.56%、27・28日が21.7%だった。

 名簿区では、過半数票を獲得した政党名簿がその選挙区の議席すべてを獲得する方式が採用され、シーシー政権支持派の「エジプトへの愛」連合が、西デルタ区、上エジプト区の両方で勝利し、60議席を獲得した。同連合の名簿にはムバーラク時代の大臣経験者や有力政治家、実業家、治安関係者が名を連ねている。指導者は諜報機関出身のサーミフ・サイフ・ヤザルで、ワフド党、自由エジプト人党(実業家ナギーブ・サウィーリスが創設)、会議党(アムル・ムーサー元外相が党首)、保守党、祖国未来党など複数のリベラル派政党が参加している。

 11月4日、代議院事務局は4日までに議員登録を済ませた227人の内訳を発表した。以下は、代議院の発表と4日付『マスリ・ヨウム』紙を合わせた情報である。

  • 元人民議会議員81、元シューラー議会議員41、元地方議会議員71
  • 「エジプトへの愛」47、個人代表区選出180
  • 政党所属者111、無所属116

政党所属者111人の内訳:自由エジプト人党34、祖国未来党23、ワフド党16、共和国人民党9、ヌール党7、祖国防衛党6、会議党4、国民運動2、民主的平和党2、エジプト近代党2、民主的エジプト党2、保守党1、自由党1、ナセル主義アラブ党1、エジプト宮殿党1

  • 女性28、若者5、コプト12、障がい者4、在外2

評価

 第1回投票が終わった時点で、選挙結果について3つの特徴を指摘できる。第一に、シーシー政権を支持するリベラル派が圧勝したことである。これは事前に予想されていた。ムルシー政権後、世論と政界の動向は反イスラーム主義に変化し、イスラーム主義はエジプトを宗教国家に変えようとする「謀略」をもった「危険な存在」と見なされている。こうした政治的環境において、政権の対テロ政策を支持するヌール党でさえ敗北した。上記の当選議員情報によれば、少なくとも政党所属者に関してはヌール党を除くすべての政党がリベラル派で、さらにシーシー政権の政治経済方針に大きな異論はない政党である。第2回投票(11月21・22日)でも政権支持派がほとんどの議席を獲得すると思われる。

 第二に、ベテラン政治家が多く当選した点である。代議院が発表した当選議員の情報によると、全227人中、国政および地方レベルの議員経験者は193人で、全体の85%にのぼる。また、名簿区で勝利した「エジプトへの愛」連合をはじめ、個人代表区で多くの議席を得た政党にも、ムバーラク時代に大臣、議員、治安関係の要職を経験した人物、地元有力者など知名度の高い人物が多い。ここから、有権者は、現在の不安定なエジプトには強い指導者、経験ある政治家が必要と考えて投票したことがうかがえる。

 第三に、投票率が低かった。これにはいくつかの理由が考えられる。2011年の政変以降、選挙が何度も行われ、有権者の選挙への関心が低下していたこと、シーシー政権の安定性ゆえに有権者の間でわざわざ投票に出向く意欲が低かったこと、立候補者・政党名簿の情報の少なさ、選挙制度の周知の低さ、などであろう。

 以上から、年明けに成立する見込みの新議会は、シーシー政権の政治経済政策を支持し、自由より安定を優先する旧来型の政治家によって構成されると予想できる。これは、ムバーラク時代の議会そのものの復活を意味しない。ムバーラク時代を象徴する政治家・実業家の腐敗や汚職を国民はもはや受け入れず、政府もそれを熟知しており、腐敗撲滅を推進していく方針である。新しい議会は、クリーンではあるが、国家の安定、国民の団結という名目のもとに政府批判を厳しく統制する方針を支持する場となるだろう。エジプトでは新議会の成立をもって「アラブの春」以降の移行過程が完了するわけだが、権威主義体制崩壊後に別の非民主体制が成立するという結果になる可能性が高い。

(金谷研究員)

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