中東かわら版

№115 イラク、シリア:「イスラーム国」の生態(盗掘した石油は誰が買う?)

 2015年11月1日付のレバノンの『ナハール』紙は、「イスラーム国」がイラクとシリアで占拠した地域で盗掘する石油・天然ガスの実態について、各種英字紙の記事や専門家への取材を取りまとめて要旨以下の通り報じた。

  • 「イスラーム国」による石油の盗掘・密輸は依然として活発で、「イスラーム国」の最大の収入源となっている。石油やそこから得られる資金の主な用途は、「イスラーム国」の車両の燃料、占拠した地域での発電燃料、社会資本整備や戦闘員への給付の原資である。
  • 連合軍による上空からの監視・偵察により「イスラーム国」による石油の盗掘や密輸の実態はある程度つかむことができるが、パイプラインを経由した輸送などは上空からでは監視できないため、現地情報に頼ることになる。
  • 「イスラーム国」は、イラクで日量3万バーレル、シリアで同2万バーレルを盗掘している。全体で日量4万2000バーレル~4万8000バーレルとの推定もある。販売価格は国際価格が1バーレル約50ドルに対し、1バーレル10ドル~35ドルと考えられている。これにより、「イスラーム国」は1日あたり150万ドル(月間約5000万ドル)の収入を得ている。
  • 「イスラーム国」が盗掘した天然資源を換金する方法は、利用者に直接販売する、仲介者に売却しその上で彼らが輸送する際に通行料を取り立てる、仲介者を通じて製油所に売却し操業許可料などを取り立てるなどがある。「イスラーム国」は輸送の過程で幾度も通行料・手数料を取り立てている。
  • イラクやシリアで活動する武装勢力諸派が外部からの寄付金を基本的財源にしているのに対し、石油・天然ガスを財源とする「イスラーム国」が優位に立っている。
  • 「イスラーム国」が盗掘した石油・天然ガスの多くの部分が、暖房などの燃料として地元の住民に販売される。外部に持ち出される石油の大半は、トルコとクルド地区を経由して持ち出される。
  • シリア政府が「イスラーム国」にとって大口の石油購入者との説があるが、どの程度の量を扱っているのかの実態は不明である。一方、「イスラーム国」はシリア政府との間で盗掘した天然ガスと各種サービスを交換している。同様に、その他の武装勢力が占拠した地域に向けても「イスラーム国」が燃料を販売している。
  • 「イスラーム国」は石油施設などを操業するのに必要な装備や専門家を、外部から調達している。アメリカ政府は、トルコを含む地域諸国と「イスラーム国」向けの石油・天然ガス施設操業のための設備の供給が続いている問題について協議している。
  • 連合国が行っている空爆は、「イスラーム国」の収入を減少させる効果を上げているが、「イスラーム国」は空爆への対応策を講じている。抜本的な対策は石油・ガス関連施設への爆撃ではなく、「イスラーム国」を油田・ガス田地域から排除することである。

表:2015年11月1日付『ナハール』紙が掲載した、連合軍による「イスラーム国」の石油関連施設への攻撃回数。

評価

 上記の報道により、「イスラーム国」による石油・ガスの盗掘と密輸への対策が依然として中途半端で手ぬるいことが明らかになった。こうした状況の最大の被害者は地元の住民であることは言うまでもないが、地元の消費者の許に燃料が届くまでの間に何度も通行料や手数料が取り立てられている模様であり、この点からも地元民にとって「イスラーム国」は単なる収奪者・搾取者に過ぎない。この関連からは、シリア政府やそれに近い実業家らが大口の購入者だとして彼らと「イスラーム国」との共謀を主張する説があるが、シリア政府などにとっても、「イスラーム国」が現れる以前は同国の領内で産出する天然資源をより安価で調達・供給してきたものであるため、例え彼らが「イスラーム国」から天然資源を購入していたとしてもそれによって生じる被害や損失を蒙っていることは否定できない。また、「イスラーム国」が石油・ガス施設を操業するために必要な施設や専門家はイラク、シリアの外部から供給されていると思われることから、例え地元向けの販売や手数料などの取り立てが「イスラーム国」の重要な収入源でも、これを断つための根源的な対策は外部からの資源供給の遮断である。

 なお、上の表の通り連合軍による「イスラーム国」の石油関連施設への攻撃回数は1日あたり1件に達していない。この点からも「イスラーム国」への資源供給を断つことを優先しているはずの連合軍の取り組みの甘さが際立つ。

(イスラーム過激派モニター班)

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