中東かわら版

№114 エジプト:シナイ半島で航空機が墜落

 2015年10月31日、エジプトのシナイ半島南部のシャルム・シャイフ空港からロシアに向かっていた旅客機が墜落し、乗客・乗員全員が死亡した。この事件について、インターネット上で「イスラーム国 シナイ州」名義の犯行声明が出回った。声明は、シナイ州上空でロシアの航空機を撃墜したと主張、シャームの地(=シリアなど)で毎日数十名がロシアの爆撃により死亡している中、ムスリムの領域や空域でロシアとその同盟者に安全はないと脅迫した。一方、ロシアとエジプトの当局は墜落が地上からの攻撃が原因であるとの説を否定しているが、墜落原因については調査中である。

画像:「イスラーム国 シナイ州」が発表した声明。

評価

 「イスラーム国 シナイ州」名義の「犯行声明」は本物であろうが、「声明類が本物であること」と「その内容が事実であること」とはまったくの別問題だという点を再度指摘しておきたい。現在インターネットなどで出回っている「航空機の墜落場面」と称する動画類は、全てこの事件とは別の墜落場面のものであり、現時点で「犯行場面」の映像や「犯人のみが知りうる事実の暴露」はない。すなわち、「イスラーム国 シナイ州」が旅客機を撃墜した事実を裏付ける材料は皆無なのである。従って、「イスラーム国 シナイ州」が犯行を主張するならば、動画や画像、その他の情報など、自らの作戦行動であることを立証しなくてはならない。その一方で、エジプトとロシアの当局が、墜落の原因を攻撃によるものでないと考えるのならば、早急に捜査・調査を行い、原因を公表すべきであろう。

 このところ、「イスラーム国」名義で発信される様々な犯行声明で、「内容の信憑性」に確証がもてないものが増加しつつある。声明などの内容が事実であると確信を持つことが可能な場合とは、自爆攻撃のような作戦で出撃場面や攻撃の実行場面の映像・画像、実行者の映像・画像を公開するような場合であり、10月26日にサウジのナジュラーン地方で発生した自爆攻撃などがこれに該当する。その一方で、バングラデシュで相次いだ外国人襲撃事件やシーア派モスクに対する襲撃事件については、声明の内容に既に報道された内容よりも詳細な情報が含まれていないため、「イスラーム国」名義の犯行声明が発表されたという事実以上のことは確証が持てない、という判断をせざるを得ない。「イスラーム国」にしてみれば、彼らに敵対する国やその権益に打撃を与えるという意味で、犯行声明類を発表することは効果的な戦術であろうが、内容の信憑性の裏づけを欠く声明を粗製乱造することになれば、「敵方を脅迫することによって政治的要求を実現したり、政治的主張を広く流布させたりする」テロ組織としては「組織の威信や信頼性の低下」という逆効果を招きかねない。「イスラーム国」のような行動様式をとる主体については、彼らが発信する情報をどのように受容するかということが焦点のひとつになっている。

(イスラーム過激派モニター班)

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