中東かわら版

№113 イエメン:人道状況の悪化

 2015年10月29日、ジャジーラTVのウェブサイトは人道援助団体のOXFAMの発表として、イエメンでは紛争による生活環境の悪化や国家からのサービスの低下により数百万人が飢餓に瀕していると報じた。これによると、140万人が国内避難民と化しており、飢餓に瀕している者は1300万人に上る。飢餓の原因は紛争による食糧不足と価格の上昇である。また、燃料価格の上昇も深刻で、紛争勃発(2015年3月末)前に比べて250%上昇している。サナアなどの戦闘地域では、燃料価格が400%上昇している。

 一方、イエメンの外貨準備高の減少も深刻である。2015年10月29日付『ハヤート』紙によると、外貨準備高は2014年1月に52億3000万ドルだったものが、同年5月には46億ドルに減少した。2014年7月には援助国からの資金提供で52億5000万ドルに持ち直したが、2015年1月には44億ドル、9月には26億ドルに減少した。これは、紛争が続く中で輸出が停止して外貨収入が断たれる一方、燃料などの必需品を輸入する代金の支払いで外貨が流出していることなどに起因する。また、通貨のリヤールは、2015年3月に1ドル215リヤールだった相場が、同250リヤールに下落、さらに過去数日で1ドル270リヤールに下落した。為替相場については、1ドル300リヤールまで下落するとの悲観的な予測もある。

評価

 イエメンでは、2011年の「アラブの春」に伴う政変や治安の悪化による経済の停滞、国民の生活水準の低下が深刻で、過去数年間国際機関や援助団体がイエメンに対する支援を呼びかけていた。しかし、イエメンの窮状に対する国際的な関心は低く、各国から寄せられる援助額は必要とされる額に達しないことが多かった。そのような中で2015年3月にサウジが主導する連合軍が紛争に介入し、イエメンの諸都市が爆撃を受け、各地が戦場と化した。紛争の中で、連合軍による誤爆や、フーシー派などによる市街地への砲撃で民間人の死者が相次いでいる模様で、27日には連合軍が「国境なき医師団」の運営する病院を爆撃した。しかし、これらの攻撃がどの勢力がいかなる意図で行ったものなのか、それによりどの程度の被害が生じたかなどの情報は、紛争当事者のプロパガンダ合戦に埋没し、確たる情報はほとんど発信されていない。確かに、イエメン紛争ではEU諸国への移民・難民の大量流出や欧米諸国、ロシアの軍事介入のような報道上の関心を惹くできごとが乏しい。むしろ、そうした無関心の中でイエメン人民の窮状が深刻化しているのだといえよう。

(主席研究員 髙岡 豊)

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